episode256 二重取りの愛

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薫は案外手際よかった。 やはりバイオリン弾きだけあって手先が器用なのかもしれない。 「これで本当に眠れるのか?」 頭の上で腕をひとくくりにベッドヘッドに縛る。 「もっときつくていいよ。慣れてるから」 「それ以上言わなくていい」 からかって笑うと白い耳たぶがほのかに赤くなるのが可愛い。 「なあ、なんであいつらに秘密にするんだ?」 あいつらとはもちろん征司と九条さんの事だ。 「だって……寝てたら無意識に庭に出て花を食べに出ちゃうんだよ。そんなのかっこ悪いしいやだ」 「そんな問題かよ」 「だってさ、精神的に病んでて変な奴だって思われちゃう」 「俺の前でよく言うな」 「あ……」 怒ってるのわけじゃない。 薫は無言のまま僕の手首の結び目がきつ過ぎないかずっと見てる。
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