episode256 二重取りの愛

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危く声を立てそうになる僕の唇を九条さんが塞いだ。 呼吸さえ聞こえてしまいそうで怖い。 「だから――何が言いたいかって言うとこれだ」 征司の声に身を固くする僕の身体を 取り込むように一層強く九条さんは抱きすくめる。 と——ドアの隙間から何か。 紙切れのようなものが差し込まれるのが見えた。 「『サロメ』——おまえが見たいと言ってた芝居のチケットだ」 征司の言葉に九条さんがグッと身体を押し込み 僕の耳元で囁く。 「——彼にも見たいと言ってたんだ?」 「ッン……!」
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