episode256 二重取りの愛

2/29
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「どうした?ぼんやりして——芝居は楽しくなかった?」 バルコニー席に2人きり舞台の幕が下りると。 九条さんは甘い声で囁いて僕の胸元に指を忍ばせた。 「あなたが悪戯するなんて珍しい」 「君だよ君——最近よくアンティークのセーラーシャツを着るでしょう」 「うん。可愛いだろ?ほら、有名な少年合唱団みたいで」 「まさか。あの子たちにこんな挑発的なの着せてみろ」 胸元の開き具合を言ってるのか。 「何?ローマ法王が出て来てお仕置きでも?」 「ああ、それはあるかもね」 それともたまにシャツが肩から落ちること? 「仕方ないよ。僕は肩が細いんだ」 「知ってるよ——」 九条さんは自分のモノだとばかり答えて シャツの肩口を持ち上げる。 「だから外国製のシャツはほらこうなっちゃう」 彼が直した途端にまた反対側がストンと落ちて 今度は左側の鎖骨から肩先が丸見えになる。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!