episode256 二重取りの愛

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「それを僕と会う日に選んできて来るんだもん——君はズルいよ」 場内が徐々に明るくなってくる。 赤い絨毯が敷かれた劇場から階下の人波は少しずつ捌けてゆく。 「正直に好きだと仰ったら?」 幸いここはまだぼんやりと薄暗い。 「ちょっ……和樹っ……」 僕はセーラーシャツを捲り上げ 誘い込むように椅子の上で身を低くする。 「それともお仕置きしてもいいよ?」 「マズいよ……こんなとこで」 「こんなとこだからじゃない」 ピンク色のタイを締めた貴公子も 「お仕置きして——」 もう少しだけシャツの裾を持ち上げながら 吐息で囁くとさすがに 「声は出しちゃダメだ――分かったね?」 「うん」 誘惑には勝てなかったみたいだ。
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