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すぐに愛して欲しかったんだ。
だけど——。
「和樹!ちょっと待てって……!」
彼はそうしなかった。
彼は僕の為に最高のベッドを用意しようとした。
「一体何が気に食わなかったんだ?」
つまりそのまま僕をレストルームに連れ込んで
乱暴に抱いたりしなかったてことさ。
それだけ——。
「放して!」
「落ち着いて話そう」
まだ人でごった返す劇場のロビーを僕は一目散駆け出した。
もちろん人波をかき分け九条敬はスマートに僕を追ってきた。
それも気に食わなかった。
「何を話すの?僕の野蛮な提案をもう一度この人混みで話してみせようか?」
おのずと声が大きくなり注目を浴びる。
恥ずかしさより陶酔感が勝った。
「君を傷つけたのなら謝る」
「謝る?僕を男娼のように扱わなかったことを詫びるの?」
ちょうどいい具合にセーラーシャツの肩が落ちる。
「僕を困らせたいならいいさ、いくらでも付き合うよ」
好奇の視線に晒されても
九条さんは僕の手を放すことはなかった。
「恥ずかしくないの?こんな僕が……」
「恥ずかしいもんか。君が僕の全てだ」
情緒不安定な最低の恋人の手を強く握って
根気強くもう一度シャツの肩先を優しく元に戻す。
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