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人ごみの中で
僕と彼女は、人ごみの中にいた。
気づくと人ごみの中にいたのだ。
「ここは、どこ?」
僕は思わずそうつぶやいていた。
スクランブル交差点にいたわけではない。
どちらかと言えば車通りはあるけれと人通りは少ないような交差点を歩いていたはずなのに。
「美空、ここがどこだかわかる?」
「……ううん」
いつもは騒がしいくらいなのに、なぜだか今はおとなしい美空にそう聞いた。
けれど、少しの沈黙のあとに返ってきた答えは否だった。
僕は辺りを見回してみる。
と言っても、人しか見えないのだが。
人ごみは同じ方向に向かっているようだった。
そして、二人で立ち止まっている僕たちを誰も見向きしないのだ。
ヤンキーっぽい人もいたから、舌打ちくらいはされるはずなのに、僕たちのことを振り返りもしない。
試しに話しかけてみても、無視される。
「美空、どうし──美空?」
「──あ、なんでもないよ。大丈夫だから」
美空の様子が少しおかしかった。
でも、本人がそう言うのなら大丈夫なのだろう。
「そう? じゃあ美空、ここどう思う?」
「わかんない」
「そうだよね、ごめん」
僕は考えるけれど、どうしてだか考えがまとまらない。
僕と美空で考え込んでいると、突然、声がかけられた。
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