悪い魔女は善良な市民を目指す

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「そこ、俺が刺した所だね」 「えっ?……はい」 気付けば私は腹部を押さえていて、王子は懐かしむ様にその場所を見る。 この環一斗は前世で王子だった。 他の人が前世で誰だったかはわからないが、彼だけは雑誌やポスターなどの紙面越しでも、一目で王子だとわかった。 他大学のオープンキャンパスの時点で、王子を実際に見かけたが、民衆を前に輝いていたあの時の様に、人混みの中でも彼は輝いていた。 前世に付き纏い続けた挙句、死傷沙汰になった相手なので、その時も全力で避けたし、わざわざその大学は辞めたのだが。 「俺の事、恨んでるでしょ」 「滅相もございません!あれは、私の悪行による当然の報い!王子に手を下していただいて恐悦至極にございます!」 「じゃ、今でも俺の事、好き?」 「……貴方の事は、遥か昔の思い出です」 「そっか……。それじゃ、今日から友だちとして、俺たちの関係をやり直そうよ」 影にいるはずなのに、爽やかな風が吹いて木漏れ日が王子の笑顔を照らす。 「良いのですか?」 「もちろん。『はい』は?」 「……はい」 王子から差し出された手を、私は恐れながら握った。
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