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「すみません。お待たせしました」
そう言いながら俺は肌に滴る水滴をバスタオルで拭い、女性物の下着を再びつける。
陰茎は小さく、女性物の下着でもすっぽりと隠れてしまう。我ながら悲しくなってしまう。
まっ平らな胸に、意味もなくブラをつけ、セーラー服を着用した。
「いいや、槙ちゃんのためならいくらでも待つさ。それにしても……やっぱりセーラー服はいいなぁ」
「……そっすか」
(まあ、俺としてはあんまりいいものではないけど)
通っていた高校もセーラー服だった。もちろん、俺は学ランを着ていたわけだが。
セーラー服を着用した後、タイマーを取り出した。
「じゃあ、今からタイマー押すんで。えっと、今日も六時間っすよね?」
「うん! いつも長い時間悪いね!」
「いや……俺はいつも指名いただいて助かってるんで……」
俺はタイマーのスタートボタンを押し、机の上に置いた。
「毎度お伝えして申し訳ないんすけど、俺、不感症なんで、いい反応期待しないでくださいね」
「わかってる、わかってる! じゃあ、僕の膝の上においで」
「……うっす」
俺は言われたとおりにベッドにあぐらで座る田中に近寄った。
「では、失礼します」
田中の膝の上にちょこんと乗ると、後ろから抱きしめられる。
「槙ちゃんの不感症なんて、ぜんぜん気にしないからね」
「あざす」
気恥ずかしくて、部屋の隅へ視線を向ける。
田中の手がお腹に触れる。贅肉のないお腹には皮が皺を作っている。その皺を愛おしそうに撫でられる。
不感症……というのも、客から見放された原因だ。
感じない、気持ちよくない、達することを知らない。
だから演技をすることもできない。
ただ、まれに、それでもいいと言ってくれる人がいる。イジらせてくれればいい、穴さえ貸してくれればいいという客が。
でもそれは、裏を返せば俺でなくてもいい。
だからリピートされることもなかった。田中以外は。
田中は愛おしそうに俺を撫でる。それに、惜しげもなく愛を囁く。
いつだったか俺の秘部に陰茎を出し入れしながら「愛している」と繰り返し言っていたこともあった。
(まあ……あれは、そのときの雰囲気もあるんだろうけど)
田中がセーラー服の中に手を忍び込ませてきた。ブラのホックをはずし、中途半端に脱がせ、胸の尖端を指の腹で擦る。
「いつもごめんね」
尖端を指で優しくイジりながら、田中が急に耳元で呟いた。
「なにがっすか?」
「気持ちよくしてあげられなくてさ」
「田中さんのせいじゃないっすよ。俺は誰にでもこうなんで……」
「男として不甲斐ないよ。だからさ、僕としてもこのままじゃいけないと思って……友人のつてを使ってさ」
「……はあ」
田中の言いたいことが、俺にはよくわからなかったので気の抜けた相づちを打ってしまう。
「AV男優の方に直接指導してもらったんだよね」
「えっあ、AV男優?」
突然の告白に振り返り、田中をマジマジと見た。
もともとまじめなおじさんで、こんな冗談を言う人ではない。本気で言っているんだろう。
「そう。それで、今までのこと反省したよ。僕って、自分本位で槙ちゃんを抱いてたんだなって」
田中は手を止めると向かい合って、俺を抱きしめた。
「今日は気持ちよくできるように、がんばるからね。でも、無理はしなくてもいい。いやならいやって言って欲しい」
「は……はぁ……。わかったっす」
田中のやりたいことを理解できないまま、俺は指示されてベッドに仰向けで寝ころんだ。
「じゃあ、槙ちゃんは力を抜いてね。僕に身を任せてね」
「はい」
正直、さっき抱きしめられたとき、少し胸がドキリと鳴った。
AV男優に直接指導を受けるなんて、バカだ。
そもそも、そんなこと俺に言っちゃう時点で大バカ者だ。
いつもいつも田中のことはうざいと思っていたが、今日の告白は不思議と嫌ではなかった。それどころか、少しうれしかった。
いつかの行為中の『愛している』が嘘じゃない思ったからだ。
(変な人……。風俗の俺にそこまでする必要ないのに)
俺の足下でローションを温める田中を見てクスリと笑う。
田中はどこにでもいそうな冴えないおじさんだし、お腹もでている。
でも今日はなんだかかわいらしく見えなくもない。
「じゃあ、触るね」
「そんなの聞かなくても大丈夫っすよ。ちゃんと準備してきてるんで」
「わかってるけど、突然触ったらビックリするでしょ!」
田中は照れながら言った。
俺の秘部にローションを垂らし、指を沈めていく。
控えめに、気遣うようにゆっくり押し進め、肉壁をまさぐっていく。
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