第一章

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2 「なんでついて来るんだよ…。」 家を出る時、光はさも当然のように俺の登校について来た。 そして今だって、迷惑を惜しみなく伝える問いかけに一切お構いなし。 涼しい顔で隣を歩いている。 「だって私は桐人さんを見守るようにと死神様に言われましたからー。」 「それは分かったけど…。 じゃあお前、もし俺に何かあったら守ってくれんのかよ?」 茜達巫女三人同様、こいつも死神の使いと言う事は何かしらの強大な力を持っている可能性が高い。 だから任せきりとはいかないにせよ、もし今後戦力になってくれるのならとても助かる。 実際に戦える木葉は最近すっかりサポート側に落ち着いてるし…。 と言うか何ならサポートすらしてないでお菓子食ってる時もあるぞ…。 「敵が来たら逃げますよー?」 「おいこら…。」 まさかこいつも茜みたいに面倒くさいからとか言わないだろうな…? 「だって私戦闘能力ないですしー。」 「は…?」 思わず拍子抜けして固まってしまう。 「戦闘能力もないですし、今まで誰かと喧嘩した事もないですー。」 「なん…だと…?」 何かの間違いじゃなかろうか…? 自分を見守る為にはるばる天界からやって来た死神の使いなのに、戦闘能力が全く備わってないなんて…冗談だろ…? 「どうしたんですかー?」 「お前…本当に死神の使いなのか…?」 「むー疑ってるですかー? 私は正真正銘死神様の使いですよー?」 「っても戦えないんじゃなぁ…。 証明のしようがないだろうが。」 呆れて俺がため息を吐くと、光は何か思い出したようにポンと手を叩く。 「あ、そう言えば私死神様からお手紙を預かっていましたー。」 そう言う仕草がいかにも子供っぽい。 本当に大丈夫かぁ…? 「えへへーすっかり忘れてましたー。」 ガクッ…。 思わずずっこけそうになる。 もはやふざけんな!そんなもんあるなら最初から出せ!と怒鳴る気にすらなれない。 「えーっとー…。 確かこの鞄にー。」 ごそごそ…フリフリ…パンパン…。 …ん? もしかして…。 「まさかとは思うけどなくしたとか言わないよな…?」 「そ、そんな筈ないですよー…。」 うわ、これ絶対そうだわ。 むっちゃ冷汗かいてるもん。 カサカサカサカサカサカサカサカサ…。 おい馬鹿やめなさい、その擬音を無駄に連打すると鳥肌立つから。 そんで涙目でこっちを見るんじゃない。 もう察したから! 「あ、そう言えばポケットに入れてたんでした~。」 「おいこら…。」 今度は本格的にずっこける。 一瞬わざとやってないよな…?と思ったが、ここまで全部計算してわざとやってたって言うんならあざと過ぎて軽くホラーだぞ。 ただでさえ現実的なのにそう言う現実は出来れば知りたくない…。 「はいこれですー。」 などと切に願っていると、光が手紙を差し出してくる。 「まぁ良いや…どれどれ…。」 【光の事は任せた!d(〉ー〈) by死神】 「軽いな!?死神! ノリノリで顔文字とか使いこなしてんじゃねぇか!? てかどう言う事だよ!?俺がお前を任されてるじゃねぇか!?」 「えへへー。 きっと死神様の手違いですよー。 お茶目さんですー。」 そんな死神嫌だ…。 紙芝居にしてぼやきたくなるレベルで…。 事実はどうあれ、とりあえずただの手違いってだけじゃないと言うのは何となく分かる…。 最悪な形で面倒事を押し付けられただけだろ、これ…。 まぁ…でもせめてもの救いは、この場に千里が居ない事か…。(日直だから先に行った。) もう手遅れな母さん以外の知り合いに、今の状況を見られるのはマズい。 こいつの事を説明しようにも母さんの時みたく事情が事情なだけに説明しようがないし…。 かと言ってこのままこいつが学校まで付いて来たらもっとマズい。 千里のみならず、全校生徒にまで見られてあらぬ噂を立てられてしまう。 「お前…やっぱり帰れよ…。」 「えー嫌ーですー。 そんな事言われても馬の耳にナンマンダーですー!」 「それを言うなら念仏な…。」 「そうでしたー! 桐人さん頭良いですー!」 「マジで頭痛くなってきた…。」 「楽しみですー。」 ほら!!もう登校中の同じ学校の奴らから奇異の目で見られてるから!!! 「わー皆が桐人さんの事見てるですよー! 桐人さん人気者ですー!」 「お前…。一体どう言う脳内構造してんだよ…?」 「ふえー?私の脳は頭を切らないと見せられないですよー? でも痛いのは嫌ーですー。」 「そう言う事を言ってんじゃねぇんだよ…。」 「じゃあどう言う意味ですー? 難しい事は分かんないですー。」 だから連れてきたくなかったんだよ…。 学校前に着くと、こっちのそんな憂鬱な気分など何処吹く風で、 「わー!これが桐人さんが通っている学校ですかー! 大きいですねー!」 大興奮。 本当に人の気も知らずに…。 「え、何あの子超可愛い!」 「え…でも何で高校に?」 「って言うか海真の連れ…? 妹…ではないよね、似てないし。」 うるさいほっとけ…どうせ俺は美少年じゃねぇよ…。 「え…じゃぁ…?」 おい馬鹿やめろ、変な誤解をするんじゃない。 瞬く間に向けられる冷たい視線が痛い。 「おい光、やっぱお前…」 「わーいですー!」 無理矢理にでも帰らせようと向き直ると、光はそのまま走って校舎の中に入って行ってしまう。 「あ、おい…!」 慌ててそれを追いかける。 ……追いかけたのだが…。 小学生の脚力マジパナイ…まじ足速い。 なんとか追いついた時には、既に自分のクラスに着いていた。 「桐人さんの教室発見ですー! やっぱり実物を見ると違いますねー。」 「はぁはぁ…やっと捕まえたぞ…。」 汗だくになりながらやっとその肩を掴む。 「……何やってんの…?キリキリ…。」 「げ…。」 と…ここで突然の声に振り向くと、今来たばかりらしい木葉が怪訝な顔をして立っていた。 「こんな所にこんな小さな子が居るのも変だけど…。 それをはぁはぁ言いながら追いかけてる辺りキリキリってまさか本当に…?」 「違うからな!? 逃げたこいつを捕まえようとして走り回ったから息切れしてただけだからな!?」 「いや…そもそも追い回してたって事実がまずアウトな気がするんだけど…。」 「っぐ…!? いや、だからこれには色々事情があるんだよ!」 くそ…こいつが勝手に変な解釈したから周りの目が余計に険しくなったじゃねぇか!! 「あれ?桐人君、おはよう。」 「っ…!?千里!」 俺の姿を見付けて、黒板を拭いていた千里が教室から顔を出す。 「えっと、その子は?」 隣に居た光を見るや、不思議そうに聞いてくる。 「え…千里っちですら知らないんだ…。 へぇ~…ふ~ん…。」 言いながら顔をしかめる木葉。 「ぐっ…。」 「あ、初めましてですー。 私、光と申しますですー。」 光が名乗りながら、木葉と千里に深々とお辞儀をする。 「あ、ご丁寧にどうも…。」 あの木葉さんをこんなに簡単にたじろがせるなんて…恐ろしい子! 「光ちゃんって言うんだね。 桐人君の知り合いみたいだけど…。」 遠慮がちに俺と光の事を交互に見比べる千里。 「あ、私達の関係ですかー? 二人で一緒に夜を過ごした関係ですー。」 ピシッ! 「…あ、千里っちが固まった…。」 ここで最悪のトドメを刺された…。 辺りがざわつき始める。 「だぁっ!!誤解を招くような言い方をするな!!」 「そんな…幼馴染の私ですらまだなのに…。 まだなのに…。」 「お~い…千里っち~…帰ってきて~…。」 石のように固まったまま何やら小声でブツブツ言っている千里を木葉が必死にフォローしている。 「あぁ!どうすんだよ!?」 小声で光に言うと、 「むー…嘘は言ってないのですー。」 「あぁ確かにな!」 「き、キリキリ…。 聞いてるかどうかは分からないけどちゃんと説明した方が…。」 「いや…そうは言っても…朝起きたらそいつが一緒のベッドで寝てたんだよ…。」 「そんなベタなギャルゲーみたいな展開有り得るか!」 と、クラスの男子。 いや、全面的に同意だしそう思いたかったさ。 でも実際現実で起きてる訳で。 当事者からしたらそれ結構理不尽なツッコミよ…? 「い…一緒の…ベットで…。」 ピキピキ…。 「きっ…キリキリ! 火に油注いでる!」 「あうー…。 私怖いですー。」 「だから誰のせいだ!」 「うわ…。 あんな小さな子のせいにしてる…可哀想…。」 ぐっ…クラスの女子からの視線が痛い…! 「お前が話しをややこしくしたんだから責任持ってちゃんと説明しろ!」 と小声で怒鳴ると、 「私はちゃんと説明しましたよー?」 けろっとした顔でそんな事を言う。 「やかましいわ!」 ひそひそ。 「キリキリ、流石にちょっと場所を変えた方が良いんじゃない…?」 最初はあっち側だった木葉も、流石に不憫に思ったのか小声でそう提案してくる。 その同情が虚しいんだよなぁ…。 まぁ助かるけども…。 「お、おう。」 とりあえず石になったままの千里と光を連れて屋上に避難する。 適当に座れる場所にそれぞれ腰掛け、(千里は固まったままだからそのままだ。) 「それで…?一体何がどうなってるのさ…?」 ため息を吐きながら木葉が切り出す。 いや、実際ため息を吐きたいのはこっちなんだよなぁ…。 目で光に説明しろと訴えると、 「むー…桐人さんは勝手ですー。 今朝は真面目に説明しようとしていた私に痛い事したのに~。 …クスン。」 「言い方!!」 「そ、そんな…あわわわ…」 今度は真っ赤な顔で慌てふためく千里。 一方の木葉は露骨に顔を顰めてやがる。 「違うからな!? こいつが説明してる最中に寝てたからデコピンしただけだからな!?」 「ふーん…。」 あ、これ全然信じてないやつだ。 「あのさ、キリキリ…。」 「な、なんだよ?」 「子供のおでこにデコピンなんかして脳震盪にでもなったらどうするのさ!?」 「なるか馬鹿!! お前は過保護な母親か!?」 「あ、どうでも良いけど脳震盪ってなんかどっかの政党みたいな名前だよね~。」 「本当にどうでも良いな!?」 何だよ、のうしん党って…。 漢字にすると脳神党か? 新世界の神とか量産しちゃう政党か…? 嫌過ぎるだろう…。 恨みを込めてもう一度光を睨むと、 「ぶー…私は死神様の使いで桐人さんを見守る為に天界から来たのですー。 でもはりきって下界に来たのは良いのですが…桐人さんの居場所を聞くのをうっかり忘れて来ちゃったのですー…。」 「アホか…。」 「夜まで探しても見つからなくて公園で途方に暮れてたのですがー…。 偶然通りかかった桐人さんのお母さんが声をかけてくれて、桐人さんを探していると言ったら家まで案内してくれたですー。」 どんな偶然だよ…。 ミラクル過ぎんだろ…。 「でもお家に行ってみたら桐人さんはもうお休みになっていたので、お母様が泊まっていってと言ってくださったのですよー。」 母さんめ…。 「それで今に至ると言う訳です~。」 「ふむふむ…なるほどね~。 でもまぁ経緯は大体分かったけど何でキリキリなの?」 「…こいつの話しでは、死神が俺に興味を持ってるからって事らしい。」 「その通りですー。」 「っても…こいつ、俺を見守る為に来た癖に戦闘能力を一切持ってないらしくてさ…。 だから正直どうするか困ってんだよ。」 「うーん…そりゃまた随分頼り無いボディーガードだね~…。」 「私の名前はボディーガードじゃなくて光ですよー?」 「名前じゃねぇんだよ…。」 「で、でも…こないだの占いの事もあるし…。 これって桐人君の身に何かが起こる前兆なんじゃないかな…?」 やっと帰ってきた千里が口を挟む。 「うーん…ってもなぁ…。 その何かの為に仕向けられたのがこいつってのも…。」 「まぁ可能性としてはありそうだよね~。」 「ボディガードは名前じゃないですかー?」 「お前は少し黙ってろ…。 …で、こいつ…どうすれば良いと思う…?」 「にはは…ま、ついて来ちゃったからには居させるしかないんじゃない? 多少の痛い物を見る目には目を瞑って…。」 「それが嫌なんだっての!」 「あはは、だよね~。」 こいつ…他人事だと思いやがって…。 「でも桐人君、とりあえず今日の所は仕方無いんじゃないかな…?」 「うんうん、このまま一人で帰らせてまた迷子になったら厄介だしね~。」 「だよなぁ…。」 うわぁ…そのパターン容易に想像出来るわ…。 こいつならもし母さんに会ってなかったら俺を訪ねて三千里どころか三万里はしてそうだ…。 「とりあえず一日は我慢してさ、放課後茜っちにどうすれば良いか相談しに行けば良いじゃん?」 「っても…まずはその一日を乗り越えられる気がしないんだが…。」 「う~ん…確かにただでさえ幼馴染みフラグで噂が立ってるキリキリと千里っちなのに、ある日突然いたいけな幼女を連れてきたらそれはもう二人の隠し子としか…。」 「アホか!?年齢的にもおかしいだろうが!?」 「そ…そんな!かかかか…隠し子なんて…。」 おおう…今度は千里の頭が噴火してすごい事になってる…。 「あのーさっきから何の話しをしてるですかー?」 「ややこしくなるからお前は黙ってろ…。」 「えー!つまんないですよー! 私、ずっと口を開けて動き回ってないと死んじゃうですよー?」 「お前は鮪か!?なら一生泳いでろ!」 「鮪じゃないですー。 ひ…」 「いや言わせねぇよ!?」 こいつが言おうとしてる事はすぐに分かった。 だから返しがどこぞの芸人っぽくなったがま ぁ仕方あるまい。 これは不可抗力だ、異論は認めない。 「あうー冗談なのにー。」 「分かりづらい冗談を言うな!」 こいつの場合天然が入ってるから分かりづらいいんだよ…。 「まぁまぁ、キリキリ落ち着いて…。」 全く…どうしてこうなった。 このままじゃ本気で今後の学校生活が危ぶまれるぞ…。 最悪、最終的には母さんと二人で夜逃げルート…なんて事に…。 「破滅だ…。」 ガクリと項垂れる。 いや…それだけは何としてでも避けたい。 そう思ったところで、一瞬昔の記憶が過った。 もう逃げないと誓ったあの日の記憶が。 このままじゃ駄目だ、変わらなくちゃと誓った記憶が。 「う~ん…彼女との事をキチンと皆に説明するのがベストなんだろうけど…実際それは難しいと思う。 一から全部これまでの経緯を説明するのは前にも話した通り流石にリスクが高いし、仮に話してもどれだけの人が信じてくれるか分からないし。」 「そうだな…。」 普段こそふざけているものの、こう言う時の木葉は本当に頼りになる。 本当…良い性格してるよ…。 「一応無難だけど一つだけ考えがあるにはあるけど…。 これもどれだけ信じてもらえるか…。」 「本当か!?」 「いや…まぁ実際作戦って呼べる程の物じゃないけどね…。」 「それでも今より状況が少しは良くなるんだろ!? ならそれで良い!」 「う…うん。 まぁ…じゃ…とりあえず大きなリスクも無いと思うしやってみようか。 えっとね…」
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