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冷徹な王の
逢瀬はいつも安い装飾が散りばめられた一室。
劣情のみを掻き立てる照明に、大きなベッドが鎮座した下品なレイアウト。
まさに『そういうこと』の為だけに用意されたこの部屋。
それなのに入ってすぐ、伸ばされた手を煩わしく思う。
「がっつくな」
(待て、の出来ない駄犬じゃああるまいし)
……ベタベタされるのは嫌い。女からも男からも。
独占欲なんて言うのも反吐が出る。
それでもまだ伸ばしてくる不埒な手を、ヒステリックな感情のまま引っぱたく。
苦笑いと共に引っ込められたそれを振り切って、乱雑に服を脱ぎ散らかしていく。
さながら横暴で冷徹な王のように振る舞ってやる。
(どうせ君はそういうの好きなんだろう?)
ほら、そうやって僕の脱ぎ捨てた抜け殻を拾い集めて回って。床を無様に這いつくばっていればいい。
柔和に見えるその顔の、瞳に光る獣の色は隠しきれないんだぜ。
……すっかり全てを脱ぎ捨てて、自由になったこの身体を安物のベッドに横たえる。
女じゃあるまいし、隠すものなんかありゃしない。
羞恥心さえも麻痺していくのが分かる。
横目で見るのは脱ぎ散らかした僕の服を、綺麗に畳んだり掛けたりする大きな手だけ。
そう、手だけ。身体だけだ。君の存在理由はそれだけだなんだよ。
同時に、僕の存在意義もそれだけだ。
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