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しかし本当に良いのだろうか、と考えあぐねていた僕に痺れを切らしたらしい。
「先輩からの命令よ! 今日は定時で帰んなさい、ね?」
おどけるようだが諭すような言い方に、これでは頷かない訳にはいかなくなる。
「はい」
「よし、いい子!」
頭一つ分も小さな先輩は、ニッコリ笑って懸命に手を伸ばして僕の頭をぽんぽんとした。
「僕、子供じゃあないんですから……」
「はいはい。あー。それでも、もう少し頼って欲しいかなぁ」
「え?」
彼女はデスクの書類を見ながら独り言のような顔で言葉を零す。
「まだまだ瀬上君は一人で抱え込む癖? が抜けないみたいだね……頑張るのはとても良い事だし、素晴らしいことよ。でも、それじゃあすぐに息切れしちゃうんじゃないかな?」
「すいません」
抱え込んでいるつもりはないけど、先輩が言うならそうなんだろう。
確かにそれで潰れたら意味が無いどころか、尚のこと周りに迷惑かけるもんな。
「あっ、また勘違いしてる! 別に怒ってるんじゃないの。むしろその能力と姿勢には尊敬してるのよ。でもね。もうちょっとでも甘えてくれると、先輩としてのあたしは嬉しいなぁって話」
照れ隠しなのか、言葉尻がわずかに早口で目線も合わない。
そして何より、うっすらと赤みが差した頬。
「先輩……」
「ほらほら! さっさと帰んなさいっ」
そう言って後ろを向いてしまったその耳がさらに真っ赤で、僕までつられて首から上が熱くなる。
(わ……かわいい)
彼女のこと、そういうに見たのは初めてだった。
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