鶯の涙ほどの

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瀬上 誠(せがみ まこと)、一目惚れしたんだ。 すごく綺麗な人だったから。 あんなに人間の容姿云々、語っていた奴が一目惚れした理由は『顔』なわけだから。 つくづく俺はどうしようもないクズ男だな。 ―――その日はいわゆる朝帰りってやつで、いつもとは違う駅を使った。 ふと目に入った、やけに険しい顔で電車を待ってる男。 切れ長の目はまっすぐ前を向いていて。 通った形の良い鼻梁に、強く結ばれた小さな唇。 服装と様子から多分社会人だな、と思った。でも俺とあまり変わらない。新社会人かなって感じの。 サラリーマンなんて若いのからオッサンまで、沢山いるこの時間帯。何故か俺の目は彼から離れることが出来なかった。 その目だ。どうも言い表せないが、その目には色んな感情が渦巻いていた。 焦燥感、不安、苛立ち、奮起……そして希望。 色んな色が綯い交ぜになったような表情。 直ぐに分かった。 彼は俺にないモノを全て持っている、と。 無気力が懸命にもがいて生きる人間に惹かれたんだ。 ……難しい事は置いておこう。 とにかく俺は初めての恋をしたんだ。 恋って良いものだよな。ふわふわして。自分がとてつもなく弱くて、そして少しだけ強くなれる気がする。 でも問題は幾つかある。 まず相手は俺を知らない。次に同性同士だということ。カノジョがいるらしい。 でもそっちの件は解決した。無事別れたらしい。 俺が何かしたのかって? まぁ多少手は回したかな。そんな大したことじゃあないよ。 あの女の子、見た目と同様に割とユルい感じだったから他に男でもこれから見つけて、よろしくやっているんじゃないの。 ほら愛は勝つっていうじゃん。あれ、違う? ……ともあれ初めて勝ち取りたいって思える人を見つけちゃったからさ。こりゃ頑張らなきゃ駄目だなって。 だから『少々』調べたり手を回したりしただけ。
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