冷徹な王の

2/2
前へ
/44ページ
次へ
「シャワー浴びてこいよ」 無遠慮にベッドを軋ませて乗り上げて来た無作法者め。 舌打ち混じりに命じると大人しく、再び軋み共にシャワールームに向かって行った。 『』 男(あいつ)がもごもごと無粋なことを口にする。 「はァ? 馬鹿言うんじゃあないよ。僕はもう綺麗にしてきた。余計なこと言わないでさっさと行け」 脇役(モブ)で奴隷の分際で僕に意見するんじゃあない。僕は王だ。少なくても今の君にとってはな。 威圧的にそう吐き捨てれば、しばらくしてシャワールームから水音が聞こえてくる。 ……僕は目をつぶった。 瞼の裏に遮断しきれない光が煩わしい火花のように散る。 心地良いとは思えないBGMが中途半端に耳腔を擽り眉を顰めた。 (こういうのオシャレとか思ってんのか) センスってもんが皆無なんだよなァ。 ま、こういう所に過度な期待はしないし、むしろこの位の低俗さが夢を見るには丁度良いのだろう。 「あー、疲れた」 僕にだって日常がある。 さっき脱ぎ捨てた窮屈な抜け殻を身にまとい、日々息苦しい人間関係を無心で生きる日常が。 『』 ……あァ? なんだもう戻って来たんだな。 ちゃんと綺麗にしてきたのかよ。 なんて聞いてやらない。別に僕はこいつの母親でもなんでもないから。 『』 「ふん、勝手にすれば?」 慣れたものだろ、跪き方はさ。 僕は大儀そうに起き上がり、ベッドの傍らに膝をついた男に向かって片足を突き出す。 「キスして」 それが『よし』の合図だ。 恭しく口付けされる足の爪先。そこからゾワゾワと熱が広がっていく。 僕は小さく溜息をついた。 ―――込み上げる涙を堪えるのに必死だった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加