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―――彼女達のアニマルバトルも見飽きた頃、スっと俺に目配せした女がいた。
(なんだ、こいつもか)
と曖昧に笑って視線を逸らそうと努める。
しかし彼女は笑顔のまま小さく首を横に振ったのだ。
(どういう意味だ?)
「……私、もう帰るね」
俺が考えあぐねている間に、女はそう宣言して立ち上がる。
ええーっ、とかなんとか複数の声が掛けられたが。女は眉を下げた笑みを浮かべて、ごめんごめんと帰って行った。
それでも特に場が白けなかったのは、このアニマル達の存在感のおかげだろうか。
再び俺以外の奴らは心から楽しんだ顔をして、盛り上がり始めた。
……俺? まぁ取り繕うことはするよ、普通に。
「あの子さ、空気読めない子なのよねぇ」
いつの間にバトル終了したのか、パンダがこちらに擦り寄ってきた。
「うちの会社のバイトの子なんだけどぉ。ちょっと天然? まぁ男の人ってそういう子好きなのかもだけど……あ、可愛いんだけどね!」
あー、はいはい。
天然を軽いディスりの言葉に使いつつ、語尾はおざなりにでも褒めとく事で『そんな子にも優しいアタシ』を演出ね。
「でもちょっと地味っていうかぁ」
そう口を挟んだのはトリ美だ。
彼女は確かになかなか着飾っている。目の上のラメは目がチカチカしてくるし、爪の鋭利さはさぞかし強そうだな。
「あー、そうなんだ……ごめん、ちょっと」
おざなりな返事を返して俺は立ち上がる。
トイレに行くと言いつつ、人々の声が溢れる店の外に出た。
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