埃ほどの

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―――彼の最初の言葉はええっと……『隣良いですか?』だっけ。 あんまりあの日の事は覚えてないんだよなァ。 なんでも酒のせいにする大人は嫌いだったが、大人になった今では分かる。 本当にお酒のせいとしか思えない出来事ってあるってこと。 ……いくつか言葉を交わした。 結論から言おう。印象としては最悪だった。 でもこれは多分僕が悪い。 八つ当たりで彼に八つ当たりをして喧嘩になった。 『表へ出ろ』 この一昔前の不良マンガみたいなセリフは僕。 うん、だから酔ってたんだ。 『分かった分かった』 と妙にニヤけた面で肩を抱くものだから、『触んな!』と思い切り引っ掻いてやったのは覚えている。 そのあとの記憶がその……あー、気が付いたら……ええっと、あーっと……その……ホテルに、居たんだ。 つまり、喧嘩した相手。しかも男とラブの付くホテルで介抱されてたってわけ。 完全に連れ込まれたんだよ。悔しいことに! 『こういう事、よくするの?』 なんて聞いてくるから、一瞬考えて出した返答がこれ。 『当たり前だろ……で、するのか? しないのか?』 バカだよな。 初体験です、帰らせて下さい。が言えなかったんだ。 ……そしたら男の表情が歪んだ。 泣き笑いのような、いや、楽しくて仕方ないって顔だったかも。 とにかく異様な笑顔に、目がギラギラとしていて動けなくなるほど怖かったのを覚えている。
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