埃ほどの

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―――待ち合わせ場所は地下にある噴水広場。 ささやかな水の音は人々の声でかき消されてしまう。 ここは待ち合わせ場所として、よく知られた場所だから。 ここに立つと時間を振り返る事が増えたのは何故だろう。 夏も秋も足早に通り過ぎ、残されたのは長い冬だけ。 出会ったのはまだ夏の蝉も鳴かぬ頃だったか。 ……あれからなんとか仕事は頑張っている。慣れない事も能力不足も、コツを掴むことや先輩達や上司の手を借りることも覚えた。 当然まだまだなのだが、それなりに社会人としてやれていると思う。 一番腐っていた時期、恭介との出会いが現状を乗り越える切っ掛けになったとは思っている。 (ま、本人には言わないがな) 彼自身も僕のこういった心境は興味ないだろうから。 (あー、はいはい。セフレだからな) 最近この3文字を頭に浮かべる度に、胸が微かに痛むのは何故だろう。 そんなことを考えいると時間が経っていたようだ。 ―――向こうから周りより一際高身長な男が歩いてくる。 付近にいた女性達が一瞬で色めき立った。 (顔は良いんだよなァ、顔は) 中身は会ったその日の男を食っちまうクズだけど。 「ごめん、待った?」 そんな美形のクズ男が真っ直ぐこちらに向かってきて、謝りつつニッコリ微笑むわけだ。 僕が女じゃ無くて良かったな。今頃、嫉妬や羨望の視線で丸焦げになってたぜ。 「遅い」 対する僕の答えはこうだ。努めて無愛想に。笑顔なんて見せてやるものか。見せるべきではない、多分。 「あはは、今日も正直でよろしい。行こっか」 そう言って彼は僕の肩を抱く。 「触るな」 その手を引っぱたいて振り払う。 恭介は会う度に何度も、こうやって肩を抱いたりベッド以外での触れ合いを求めてこようとする。 その度に僕は強く拒絶していた。 これは彼と僕の立場を守るためでもある。お互いの関係を間違えない為だ。 「はいはい」 気を悪くした様子なく微笑んで歩く恭介の、半歩後ろを歩く。
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