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(む、すこし痩せたか?)
元々痩せ型ではあるが、わずかに横顔にやつれが見える気がする。
でも僕からは指摘しない。向こうもそれは望んでいないだろうから。
「あ、危ない」
「え?」
ボーッとしていたのが悪かった。
数メートル前に歩道を走る自転車。
認識すると同時に腕を引かれ、気がつけば抱き寄せられていた。
「あっ……!」
彼の体に触れた半身がじわりと温かくなる。
顔にまでうっかり熱が集まり息が詰まる気分だ。
「気をつけてね、怪我したら大変だ」
「……ッ」
肩どころか腰を抱いて囁くものだから吐息が耳に。
耳腔や首筋を撫でて擽り、嫌でも考えてしまう……これから彼とする事のことを。
(ま、まぁそうか。これからヤろうって時に怪我されたら面倒だもんな)
そう考えると少しは冷静になれる気がする。
胸の奥が深く鈍く痛むけれども。
「だ、大丈夫、だから。離せ」
「……ふーん」
(勘違いしないうちに目的を遂げよう)
僕は鼓動が悟られないように、先程以上に距離を空けて歩き出した。
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