鶯の涙ほどの

1/5
266人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ

鶯の涙ほどの

つまらない日々だ。なんの意義も希望も見いだせない。 周りのバカやってる奴らがむしろ羨ましい。すごく楽しそうだ。 それで俺はと言うと。 そいつらの表情を見様見真似で猿真似して、腹の中では空っぽの何かを抱えて生きてる。 そんなワケで今日も以前からしつこく誘われていた飲み会に、渋々行ったわけだ。 『村瀬を連れて来いって、女の子達がうるさいから』だっていうけど、正直褒められた気分はしない。 だって結局、彼女達は俺の何を見てるんだ? 顔と俺の家柄か。あとは金か。 ひけらかす訳じゃあないが、俺の家は一般的な呼び方で言うところの『金持ち』らしい。 とは言っても単に親父とお袋、兄貴も幾つか会社をやっていたりと経済活動に精を出していただけだ。 俺自身は何もやっていない。 むしろこうやって、遊んで暮らしていると同様の生活をしているのだから世話無いよな。 ある時からそんな俺を苛んでいたのは、一種の無力感だ。 この好意的なの言葉や視線の数々も蜃気楼のようなモノで『村瀬 』というブランドに惹かれているだけじゃないかな。 この顔だって、他人が思うほど良いものではないと思う。 人は骨に張り付いた肉や皮膚の形を容姿と呼んで、その優劣を付けたがる。しかしそれってとても不毛な事だとは思わないか。 まぁ、こんな事を言えば『上から目線』だと批難されるだろうから決して口には出さないけれど。 ……そんな密かに鬱屈した中で、彼に出会った日を思い出してみよう。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!