なけなしの

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なけなしの

部屋に入り、僕は僕の役割を演じる。 簡単な事だ。傍若無人な裸の王様になればいい。 どうやら彼はそういうプレイがお好きなようだから。 「そ、そこっ……あんまり、さわっ、んな」 女のそれと違う、柔らかくも無いしボリュームも無い貧相な胸に手を伸ばす彼に釘を刺した。 ここに触れられるだけで、自分はゾッとする。 『僕は何をやっているんだ』って現実に引き戻される気分になる。 「村瀬っ!」 「……名前で呼んでって言ってるでしょ?」 珍しく手を引っ込める様子のない彼の名を、叱りつけるように叫ぶ。 すると穏やかだが有無の言わせない言葉が返ってきた。 「きょ、恭介……」 「よぉく出来ました」 その瞳に僕は怯えた。 口元は柔和に笑う彼の瞳には獣が住んでいる。 (でも怯える以上に魅せられている、なんて) 僕って変態なのか。 自嘲しながらの思考で、きっと注意が散漫になっていたのだろう。 彼が低く唸った瞬間与えられた刺激によって、強制的に浮上させられる。 「……んんッ!? ふ、ぁぁぁ、イッ、いたッ……!」 「また別のこと考えてる」 明らかに不機嫌そうな声のあと。 不意打ちで脇腹を撫であげられ、首筋に噛み付かれた。 強く歯を立てられたから、それなりに痛い。歯型どころか血も滲んでいるんじゃあないか。 空気に晒されるとヒリヒリする。 「あんまり怒らせると……食べちゃうよ」 子供が軽く拗ねて見せるような膨れっ面。それも本気ではなく、おどけて見せているような……だけどその目は。 「……」 今日は王様では居られないらしい。
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