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翌朝、5時頃には強風域も抜け、果樹園に多少の被害を残して、台風9号は北東に消えた。
地元の消防団、警察を加えた青年団が何班かに分かれ、7時から捜索が始まった。カズが行方不明というニュースは、昼前にはテレビに流れた。
俺達、仲間が顔を合わせたのは、日曜日の午後になってからだ。朝陽小のグラウンドに集まった時、皆、沈痛な――葬式のような表情だった。特に、最後にカズと分かれたヒロは、責任を感じているのだろう。血の気のない真っ青な顔色の中、充血した赤い瞳が泣き腫らした痕跡を示している。
「忘れ物って、何だったんだろうな」
「分からないよ」
「……見つかるよな」
「当たり前だろ!」
会話が続かないまま、俺達は、最後にカズを見た「3線道路の御堂前」まで歩いた。捜索隊も重点的に調べているらしく、俺達が近付くことは許されなかった。
新学期になって最初の全校朝礼で、校長先生がカズのことを話した。ホームルームでも、担任の高梁先生が「信じて待とう」と言ったが、女子の中からは啜り泣く声が上がった。
運動会の開催を危ぶむ意見が上がる中、俺達はリレーの練習を自主的に再開した。ある日突然、『遅れて、ごめん』なんて苦笑いしながら、カズが現れるような気がしていた。
ー*ー*ー*ー
「えっ――転校?」
1週間程経った、9月半ばの日曜日。リレー練習から帰ると、シャワーよりも、着替えるよりも先に、リビングのソファーに呼ばれた。向かいで、両親が揃って座っている。俺が腰を下ろした途端、父さんが言い難そうに切り出した。
「今度の週末に、引っ越す。来月頭の運動会まで、何とか待ってもらうように頼んだんだけど……無理だった」
あまりにも突然の宣告に、訳が分からなかった。
「そんな……俺、リレーに選ばれて、練習してたの、知って」
「知っているから、お父さんも随分会社にお願いしたの。本当は、8月いっぱいで引っ越すように言われていたのよ」
申し訳なさそうな父さんの隣で、母さんも辛そうな表情を見せた。
「でも、あと半月なのに! 酷いよ!」
「遥斗っ!」
俺は、夢中でリビングを出た。今しがた脱いだばかりのランニングシューズを履いて、家の外に飛び出した。
行く宛はない。仲間には、どんな顔をしたらいいのか分からなかったし、今の卑屈に歪んだ顔は見られたくなかった。
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