プロローグ

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ひどい時は「あ、歩美ちゃんじゃない方か」と言われた上、あからさまにがっかりされた。 物心ついたころから、いや、この世に生まれ落ちた時から、私は『歩美ちゃんじゃない方』と呼ばれてしまうに相応しい人間だ。 顔は瓜二つなのに性格は、まるで正反対。 言うなれば歩美が「陽」なら、私は「陰」。そんな漢字一文字がぴたりと私の性格を言い当てている。 歩美に間違えられたことに対して、特別な嫌悪感はない。間違えられないことの方が珍しいのだ。 話したこともない真木さんにそんな双子の私と歩美を見分ける術があるはずもなかった。 お辞儀をして歩き出そうとした時、 「あ、待って! お姉さんの方のが都合がいいかも。早く乗って」 真木さんの声が響いた。 車の中から笑顔で手招きをする真木さんを私は黙って見ていた。 話しかけられたら、誰もが立ち止まり話を聞いてみたくなるような笑顔をしている。 黙ったまま動かないでいる私に向かい、余計に手招きするスピードを速めた真木さん。 信号が変わり、真木さんの車の横に並んでいた車が発進し始めた。 真木さんの車の後方にいた大きな外車が真木さんへクラクションを鳴らした。
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