プロローグ

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「後ろから車が来てるから早く!」 路肩に車を寄せてきた真木さん。私が乗らない限り動かさないつもりみたいだ。 激しいクラクションの音にせかされて仕方なく助手席に滑り込んだ。 「あの、なんですか?」 「いいから、シートベルトして。交通違反なんかで捕まりたくないんだ」 言われるままにシートベルトをかけた私を確認し、車を発進させた真木さん。ため息をつきながら真木さんの横顔を眺めた。 真木さんと関係があるとされる女は、社でも一人や二人というような少数じゃない。 手ぐせの悪い遊び人。それが真木さんに対する私の評価だ。もっとも、真木さん自身の本当の姿を私は全く知らない。周りの噂を聞いただけでつけた評価だから、あまり当てにはならない。 「あー、ちょっと頼まれてくれないかなぁ」 真木さんは前方を向いたままで口を開く。 その言い方がとても軽い調子だったため、不良が出てくる昭和の学園ドラマを思い出してしまった。 焼きそばパンを毎回買って来させる意地悪なヤンキーの先輩。そういう先輩は、頼んだら、してくれるのが当たり前のように、軽い口調で頼みごとを始める。それがお決まりのパターンだ。
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