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プロローグ
★
オフィスを出て、ケヤキ並木が続く広いタイル張りの歩道を早足で歩く。
別に急ぎの用事なんかない。
仕事が終了した後、このお洒落な街に特別な用事がないだけだ。
ショーウィンドーに飾られているきらびやかで派手なドレスは、私には到底縁のない物だし、ブランド品に興味は無い。
横断歩道の近くにきた時に軽くクラクションが鳴らされた。
少し驚いて音のした方へ視線を向けた。信号待ちをしている黒の乗用車のウィンドーが下げられる。
中から顔を出したのは、会社で有名なイケメンで遊び人の真木さんだった。
「送ってくよ」
サックスブルーのシャツに似合いの爽やかな笑顔だ。
「誰かと間違えてませんか?」
「え? あれ、もしかして…お姉さんの方?」
途端に真木さんの引きつる笑顔が見えた。
ーーーいつも大抵こうだった。でも、お姉さんの方? という聞かれ方は、まだマシな方だ。
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