第14話『ローズウィップのクレマンス』

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第14話『ローズウィップのクレマンス』

「ちょっと待ちなよバルバトス!」  野次馬のなかから凛とした声が響いた。  人垣を割って出てきたのは爆乳の美女だった。  褐色の肌と紫色のミディアムヘア。  ビキニアーマーにマントを羽織っている謎ファッション。  寒いのなら服を着ろ。  へそを出しちゃって色っぽいったらない。  靴音を鳴らし、モデルっぽい洗練された歩き方で向かってくる。  ビキニアーマーって本当に着るやついたんだ。  痴女か?  それともこの世界じゃ割とありふれてるのだろうか。 「ローズウィップだ!」 「Bランク冒険者、ローズウィップのクレマンスじゃねーか!」 「今時ビキニアーマーを着るなんて普通の神経じゃマネできねえ!」 「あんな格好を好んでする女冒険者なんてあいつくらいだぜ!」  ……あれは特例みたいだ。 「バルバトス、たった一回ブン投げられただけで認めんのかい? そんなガキが宰相ヘルハウンドを一人で倒したなんて絶対におかしいじゃないか」 「…………」  バルバトスは無言を貫いている。 「あんたがそれ以上やる気がないんなら、アタシが代わりにこのインチキ小僧の化けの皮を剥がしてやるよ!」  バルバトスのこめかみの血管がピクリと動いた。怒ったんだろうか? 「やめておけ……お前には荷が重い……」 「おいおい、魔王と互角に戦った男が随分と逃げ腰じゃないか。もしかしてこんな小僧相手にビビったんじゃないだろうね?」 「オレたちが戦うべきは魔物だ……。こいつの力はさっきのやり取りでわかった……。不正がないのなら人間同士で無駄に争う必要はない……」 「さすがバルバトス!」 「あの一瞬ですべてを見極めるなんてさすがだぜ!」 「バルバトスが言うなら間違いねえ!」 「Aランク同士、通じ合うものがあったんだな!」 「強いのに力をひけらかさないところが最高にクールだ!」  なるほど、バルバトスはこれを狙って俺に絡んできたのか……。  Aランクのバルバトスが白黒つけてくれたおかげで俺に対するヘイトはかなり削減された。  少なくともここで見ていた連中はもう突っかかってくることはないだろう。  バルバトス、大した男だぜ……。今度投げ飛ばしたことを謝ろう。 「バルバトスが見逃してもアタシはそんなに甘くないよ!」  それに比べ、この女はキャンキャンと……。  とっとと片づけるか。念のためステータスを確認しとこう。 【名前:クレマンス・コールフィールド】 【職業:Bランク冒険者】 【ステータス:鞭術LV3 剣術LV2 槍術LV1 料理LV4 裁縫LV4 掃除LV4 洗濯LV4】  なんだ……こいつのステータスは。  あの痴女ファッションや蓮っ葉な口調で家事系のスキルが軒並み高いとか……。  どれも武術系のスキル以上じゃん。嫁入り準備は万端ってこと?  ……俺は見てはいけないものを見てしまったのかもしれん。 「お前って、料理とか裁縫が得意なの?」 「……なっ!? ア、アタシがそんなチマチマしたことをするわけねえだろうが!」 「そうだぜ兄ちゃん。こんなザッパな女が料理や裁縫なんてまともにできるわけねえだろ」 「生肉をそのまま平らげてそうだもんなぁ!」 「塩と砂糖の違いはわかるかぁ?」 「死なすッ!」 「ひぃっ」 「ごめんなさいっ!」 「すいませんっ!」  痴女がひと睨みするとモブ冒険者たちは縮み上がった。  最初から調子乗らなきゃいいのに。 「よくもコケにしてくれたね、小僧! 許さないよ!」 「……全部俺に向かってくるのか」 「訓練場に行こうぜ! 久しぶりにキレちまったよ!」 「しょうがねえな」  俺は痴女と一緒に訓練場に向かう。  ベルナデットも置いて行かれないようにとパタパタついてくる。  猫の獣人なのに犬みたいだな。  野次馬もいっぱいついてきた。俺たちの勝敗で賭けるつもりらしい。  バルバトスはいつの間にかいなくなっていた。  バカバカしくなって帰っちゃったのかな。  俺も帰りたいわ。
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