第164話『誠意って何かしらね?』
「ちょっといいかしら?」
スチルが口を挟んできた。
何を言い出すつもりだ? あんまりいい予感はしない。だってスチルだもん。
「ねえあなた。誠意って何かしらね?」
スチルはフランソワの頭から足先まで、全身を値踏みするような視線を送ってゲスい笑みを浮かべ言った。
「え……? そ、それって、まさか――」
フランソワは表情をこわばらせてカタカタ震えだす。
威勢のよかった態度が一瞬にして消沈した。
「フッ!」
「…………」
スチルは『どうっすか? 生意気な輩に一発カマしてやりやしたぜ!』みたいなドヤ顔をこっちに向けてきた。
あのさ、ややこしくなるから余計な口挟まないでくれる?
「そういえば!」
「ん?」
フランソワがキッと目を吊り上げて叫んだ。
彼女は何かを思い出したらしい。
スチルの趣味が悪い冗談からはもう切り替えたようだ。
切り替え早いな……。
「あなた、領民にあたしたちを迫害するよう仕向けてるでしょ!」
藪から棒にとんでもないことを言い出した。
金の無心に失敗しそうだからってヤケクソで何ほざいてんの?
「そんな陰湿なことしねえよ……」
とんだ被害妄想である。
俺をどれだけ悪人に仕立て上げたいのか。
「嘘よ! だって町の人たちがなんかよそよそしいもの!」
「そりゃあ、領主の座を奪おうとしたやつの一派なんだから遠巻きにされて当然だろ」
呆れ混じりに言うも、彼女にはあまり響いていないようであった。
「よそよそしいだけじゃなくて、明確に敵意の視線を送ってくる人たちもいて怖いのよ。冒険者ギルドの食堂でお弁当を食べてたら、子供たちにまで『いやなやつらがメシ食ってるぞ!』って言われたし……」
子供たち? ギルドにいるなら回復魔法を担当してる子供たちか……?
子供がそういう発言をするのは少々問題ありだな。
そこは後で調べておこう。
いや、大人でも褒められた行為じゃないから問題だけど。
「くぷぷ……いやなやつらがメシ食ってるって辛辣すぎ……!」
スチルが俯いて腹を抱えながら堪えるように笑っている。
こいつ、ほんまええ性格してるな……。
自分も子供の無邪気な残酷さに泣かされたのに。
「ねえ、どうにかしてよ! どうしてあたしたちがこんな目にあわないといけないの!?」
フランソワが叫んだ。
スチルのろくでもない態度には気づいてない様子。
「だから、俺は関知してないんだって」
「そんなの無責任よ!」
いや、これってお前らが責任に対するツケを払っている状況では……?
その所在を俺に求めないで頂きたい。
確かにコイツの知らないところでハスミが起こしたことではある。
しかし、あいつを全肯定して増長させた部分に責任がまったくないとは言えないはずだ。
「まあ、真面目に慎ましく暮らして領民たちからの信頼を積み重ねていくしかないんじゃないの? ニコルコに住み続けようと思うならさ」
信頼度ゼロどころかマイナスからのスタートだけど。まあ、命に危険が及ぶようなことになりそうだったら周辺の警備を強化するくらいはしてもいい。自業自得な連中のために騎士を派遣するのもなんだかなぁって感じだけど。
治安には変えられない。
「うう、あたしたちはどこに行っても居場所がないんだわ……。共和国でも最初は『大変だったね』って歓迎してくれた町の人たちもなぜかだんだん冷たくなっていって、結局は居づらいから土地を転々とするしかなかったし」
己の境遇を嘆くモードに入ったフランソワ。
理由もなく迫害されているような言い草だが、原因は明白なんだよなぁ。
「中にはもう頼むから出て行ってくれとか言ってくる酷い領地もあったの!」
「…………」
そりゃ、金食い虫の無駄飯食らい軍団だってわかったら同じ待遇で扱うわけがない。
なんか建設的な話できなさそうだし帰って頂こうかな……。
俺がそういう判断に傾きかけていると、
「ヒョロイカ様、部屋に入ってよろしいですかな?」
扉の向こうからジジイの声がした。
この声のジジイはシルバリオンか。
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