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第28話『これぞパーティの醍醐味だ。』
俺たちは森の入り口に到着した。
魔王城は森の奥深くに位置しているため、本来はここからさらに時間がかかる。
普通なら数日はかかってしまう道のりだ。
しかし、ここで俺のチートがインチキを発揮する。
「じゃあ行きましょうか」
「危険が伴うが……致し方あるまい」
「ジロー様はわたしが守ります」
「いや、森に入る必要はないぞ」
「「「え?」」」
やる気満々で森に踏み入ろうとする女性陣を引き留めて、俺は購入しておいたキングサイズのベッドをアイテムバッグから引っ張り出した。
「みんな、こいつに乗れ」
「「「……ッ!!」」」
女性陣が明らかに動揺した。
大きく目を見開き、警戒したような素振りを見せだす。
「……ん? なんでそんなにビビってるんだ?」
アイテムバッグはすでに昨日見せたはずだが。
「ジロー様、こんな見晴らしのいいところでなんて豪気すぎます……」
「た、確かにあなたには感謝してるわよ? だけどそういうのは早いっていうか、時間的にも……それに外だし……」
「わ、私も感謝もしているし、尊敬もしているが、そういうのとは違うというか……」
三者三様、顔を赤くしたり青くしたり、戸惑っていたり。
ああ、こいつは……。
「お前ら……なんか恥ずかしい勘違いしてるだろ」
「「「え?」」」
数分後。
ベッドは飛行魔法によって空を飛び、俺たちに快適な空の旅を提供してくれていた。
まったく、乗り物代わりにちょうどいいから選んだだけなのに。
もふもふへの愛が足りないから穿った見方をしてしまうのだ。
困ったやつらである。
ベッドの隅に固まった女三人は何やら話をしている。
いわゆるガールズトークというやつかね。
こっそりと耳をそばだててみた。
「そういえばジロー様はわたしのもふもふした部分にしか興味がない方でした……」
「え? ジローってそういう趣味なの?」
「だったら安心だな。健全とは言い難いが……」
ちらちらと視線が向けられている。
おいこら、人を勝手にケモナーにするんじゃない。
俺はちゃんと人間の女性が好みだぞ。
俺のもふもふへの気持ちはもっと尊い、別種のものだ。
ヒソヒソヒソ……
ヒソヒソヒソ……
ヒソヒソヒソ……
ええい、居心地が悪い。
女三人寄れば姦しいとはこういうことか!
「そろそろ城に着くぞ!」
ほっとくとあらぬ方向へ話が進みそうなので強引に話を切り替える。
ここで打ち切ると余計に誤解が進みそうな気もするが、寄り集まった女の群れを説き伏せるトーク力は俺にない。
ジゴロスキルとかあれば……いや、ないほうがいいな。
さすがにそれはちょっと持ちたくねえわ。
「いよいよね……」
「うむ……」
「…………」
見えてきた魔王城を見て、パーティの緊張が高まる。
「ところで、ジロー。作戦とかはあるの? 死角になってる箇所とかは?」
デルフィーヌに訊かれる。
作戦か……。なんも考えてなかったな。今考えよう。ポクポクチーン。
「魔王城には窓がないから、城壁を壊して侵入するってのはどうだろう?」
「「「ええっ!?」」」
「あの辺が手頃そうだな」
隠密スキルのおかげでベッドは魔物たちには見えていない……と思う。
門にいる見張り番たちの上空を抜けて、古めかしい魔王城の城壁に辿り着く。
「むんっ!」
――ボコッ
重力魔法で壁を破壊し、速やかに潜入経路を作成した。
「……よし、バレてないな」
城内に降り立ち、ベッドをアイテムバッグに戻しながら外の見張りを確認する。
壁は土魔法で修繕しておこう。
帰るときはまた適当に穴を開けてそこから出て行けばいい。
他人の家だから好きなだけ穴を開けていきますよ~。
「こ、こんなあっさり魔王城って忍び込めるものだったのかしら……」
「ジロー様にかかれば容易いことです」
「ううん……辺境伯軍の苦労はなんだったのだ……」
いろんな反応があって面白い。
ま、各々の立場で思うところは異なるのだろう。
これぞパーティの醍醐味だ。
え、違う? そうなのか……。
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