第1話『……『全マシ。』?』
目を開けると眩い光の空間に佇んでいた。
『ウイイイイイイイッッッッス。どうも、神でーす!』
なんかうるさい幻聴が聞こえた。
俺はどうしてこんなところにいるんだ?
愛猫のコタローをもふもふした後、トイレで小便をしたところまでは覚えているんだが。
猫のお腹って太陽に干した布団と同じ匂いがして病みつきになるよな。
俺は定期的にあのもふもふを堪能しないと生きていけない身体だ。中毒だ。
ノーもふもふ、ノーライフだ。
『お前らはYO! 勇者に選ばれたんだYO! だから異世界に行って魔王を倒す勇者やってくれYO!』
やかましい声がウザいノリで頭の中に響く。
こいつ、直接脳内に……! 幻聴じゃない? 神様の声? どうやらそうらしい。
ふうん? 異世界転移? なるほど。定番のネタですな。
俺の隣には三人の男女がいた。
どいつもこいつも割と容姿が整っていた。
そいつらがギャースカ騒ぎだす。
え、俺の外見? それは御想像に任せる。
「ゆ、勇者って、ふ、ふざけないでくださいよ!」
一人はマッシュルームカットのジャリボーイ。
歳は中学生くらいかな、声変わりもまだで女みたいな顔をしている。
ソッチ系の性癖の人にケツを狙われそうな外見だ。
内股でナヨナヨしてるし、もうすでに掘削済みかもしれない。
「異世界とか意味わかんねーわ。マジねーわ。ちょーありえねーわ」
もう一人は金髪のイケメン。
束感のある逆毛のヘアスタイル。まるでホストだな。
多分、大学生くらい。きっとヤリチンだろう。
新歓で女の子を酔わせてパコパコしたのは一度や二度ではないはず。
羨ま死ね。
「ざけんなし、なんであーしが、そんなことしねーといけねーんだよ!」
最後はピンクっぽい茶髪の少女。髪の長さはショート。
顔は可愛いのに眉毛が超薄くてなんか怖い。唇にピアスがついている。
恐らく高校生。制服着てるからね。
スカート短けぇ……。これはビッチだな。
『お前らはYO! それぞれの時間軸でただ一人、地球で唯一の存在になっていた奇跡の連中なんだYO!』
神を名乗る声曰く、
マッシュ中学生はとある瞬間、地球で唯一オナニーをしてイッていた人間。
イケメンヤリチンはとある瞬間、地球で唯一ウンコをしていた人間。
ピアスJKはとある瞬間、地球で唯一鼻くそをほじっていた人間。
そして俺はとある瞬間、地球で唯一おしっこをしていた人間。
……ということらしい。なんだそりゃ。
そんなんで勇者を選んでいいのだろうか。
「「…………」」
俺とヤリチンの視線はJKに向かっていた。
こんな可愛い子も鼻くそほじるんだなぁ。
人間だし当たり前だけど。
「見てんじゃねーしぃ! あーしが鼻ほじってたら悪いのかよ、おらぁ!」
JKがキレたので俺とヤリチンは顔を背けた。何も悪くないです。ごめんなさい。
「うう……うわあぁ……」
マッシュ中学生は顔を赤くして頭を抱えていた。
自慰を恥ずかしがるお年頃だもんな。公衆の面前で暴露されて可哀想に。
女みたいな顔してやることはやるんだな。
けど、誰もが通る道だ。恥ずかしい行為ではない。
気にしないで強く生きろよ。
俺たちの目の前に穴の開いた箱が出てきた。
ぷかぷか宙に浮いている。すげえ。どういう原理だ?
……細かいことは気にしないほうがいいんだろうな。
『こいつのYO! 中に紙が入ってるからYO! 一枚引いてくれYO!』
声に命じられるまま、中学生、ヤリチン、JK、俺の順番で手を突っ込み引いていく。
反抗的なことを言ってたくせにみんなびっくりするくらい従順だった。
恥ずかしい生理現象を指摘して心を揺さ振り、その隙を突いて要求を飲ませる。
神め、えげつない真似しよるわ。
『紙にはYO! お前らにやるチートスキルが書いてあるからYO! 読んでみろYO!』
「チートってなんだよ。そんなんより元の場所に戻せっちゅーの!」
「その通りですよ!」
「あーしを家に帰してよ!」
特典でチート。これもまた、お約束ですね。いいじゃん。貰っておこうよ。そんでファンタジー世界でツエーしちゃおうぜ。俺は乗り気だった。不思議とね。
ぶつくさ言いつつ、それぞれ何を引いたか読み上げていく。
中学生は『英雄の弓術』
ヤリチンは『勇者の剣才』
JKは『聖女の癒し』
そして俺は――
「……『全マシ。』?」
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