第11話『精進せよ。己の糧を己で手に入れられるくらいに』

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第11話『精進せよ。己の糧を己で手に入れられるくらいに』

 飯を食ったら服屋へ行く。ここもバーテン看板娘に訊いた店だ。 「この子に合う服を見繕って欲しいんだが」  ベルナデットの服は奴隷商で着ていた貫頭衣だけ。下着もなかった。  これで連れて歩くのは少々やばい。  法的に問題なくても俺のSAN値がゴリゴリ削られる。 「おや、獣人の……奴隷の子か。歳はいくつだい?」  服屋のご婦人はベルナデットの首輪を見て眉間にしわを寄せた。  今頃だが、奴隷にはその証として首輪がつけられている。  主人に逆らわないようにさせる効果がデフォでついてるらしい。  いろいろと説明されたが詳細は忘れた。  困ったらステータスで確認すればいいしな。 「……10歳だけど。奴隷に服を売るのは気が進みませんか?」 「いやいや、まさか。そんな時代遅れな考えのやつはそうそういないよ。ただ、この子はちゃんと食わせてやってんのかい?」 「朝飯は食わせたよ。これからも食わせるつもりだ。昨日買ったばかりだからそれ以前のことは知らん」 「そうかい。しっかり食べさせてあげるつもりなら服は大きめのを勧めるね」 「大きめ? なぜだ?」 「知らないのかい? 獣人の子供ってのは10歳から13歳までの間に急成長して大人の身体になっていくんだよ。だからあっという間に服が着れなくなっちまう。ちゃんとした栄養状態ならって話に限るけどね」 「なるほど。じゃあ、とりあえず下着とかも含めて三着くらい大きめのを揃えてくれる? 冒険者として一緒に連れてくつもりだから動きにくいのはナシでお願い」  希望を伝えると服屋のご婦人は店内にある商品を探しに行った。 「わ、わたし冒険者になるんですか?」  ベルナデットが初耳だと目を丸くしている。 「言ってなかったっけ? 俺も冒険者だから。もふれない以上、一緒に狩りに出られるくらいにはなってもらう。ただ飯を食わせるつもりはないぞ」 「は、はい……頑張ります!」 「うむ、精進せよ。己の糧を己で手に入れられるくらいに」  精進などしたことない口先で俺は言った。  自分ができなくてもしたり顔で語る。  人を育てるには必要なことだ。  知らんけど。  俺の注文通り店員のご婦人は動きやすそうなミニスカやショートパンツなんかを持ってきた。  試着室で着替えて、いざお披露目。 「いいじゃないのさ! もとがいいからうんと可愛くなったね!」 「えへへ……」  店員におだてられてベルナデットは嬉しそうだ。  服装がまともになったからか、年相応の無邪気さが垣間見れるようになってきた。 「この子は大きくなったら別嬪さんになるよ。お世辞抜きで間違いない。大事にしてあげれば将来結婚してくれるかもしれないよ?」  服屋のババア、うるさいぞ。余計な世話だ。  そもそもなぜ俺がしてもらう側なのか。  俺がこいつの主人やぞ。  しかし大きくなったら……か。  多分、それより前に解放するか俺が元の世界に帰るかしてると思う。  あんまり関係ない話だな。 「あ、あの……ご主人様。似合ってますか?」 「世界一可愛いよ」 「えへへ……」  適当に答えたら普通に喜んでた。少し罪悪感。  服を買ったら次は武器屋に向かう。ギルドは後回し。  装備を揃えたらそのまま金を受け取って依頼を受けるつもりだからな。 「おーい、おっさん。俺とこの女の子に向いてそうな装備をなんかくれ」 「坊主、ランクはいくつだ?」  武器屋の厳ついオヤジは俺を見定めるように鋭い眼光を飛ばしてきた。  坊主ってだから俺25歳なんだけど。  いちいち説明するの面倒だからスルーでいいやもう。 「Aランクだよ」 「……本当か?」 「ほい、これが証拠」  伝家の宝刀ギルドカードチラ見せだぁ!   実力を疑うモブを黙らせる必殺奥義。  偽造ができない身分証明書だから効果は絶大である。  ふはは、俺を誰だと思っている! 「そうか、疑って悪かったな」 「…………」  あっさりしてんのな。別にいいけど。 「じゃ、予算200万くらいで適当に選んでくれない?」 「獣人の子は成長期ですぐに背丈が変わるから何度か買い替えをすることになると思うぞ」 「それでいいよ」 「お前さんは普段どんな戦い方をしとるんだ?」 「魔法でビュビュって感じ」 「魔道具屋へ行け……」 「つれないこと言うなよ。俺はそこそこ丈夫な剣と軽めの防具でよろしく」  剣の才能もあるんだから一本くらいは持っておきたい。武器屋のオヤジはフンと鼻を鳴らして武器の選定を始めた。
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