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第29話『いわゆるサラブレッド』
久しぶりにやってきた魔王城は相変わらずジメジメして薄暗かった。
しかし俺は何らかのスキルが発動しているおかげか先のほうまでしっかりと見えていた。
俺以外は視界が覚束ないようなので俺の服を掴ませ、ベルナデット、デルフィーヌ、エレンの順に連なって歩くことにした。
うーん、これならデルフィーヌと二人で来たほうが効率よかったな……。ベルナデットがショックを受けそうだから言わんけど。気配察知、危険察知、隠密を駆使し、見回りの魔物たちと一回も接触せずに城内を散策する。
魔王が死んでいるのに魔物たちはまだ城にいるんだな。
生き残ってる幹部とやらがまとめているのか?
それともなんとか形だけ保っているのか……。
やがて、おぼろげな記憶を頼りにどうにか目的地に到着した。
俺が初めてこの世界に呼び出された『謁見の間』っぽい部屋である。
見張りは立っていなかったのでそのまま扉を開けて中に入る。
部屋の中はガランとしていて殺風景。
音もなく静かなものだった。
ま、部屋のものは粗方俺が持ち去っていったからなwww
古道具屋に売っ払って、いいお小遣いになりました。
どうもありがとう!
「魔法陣……あったわ。だいぶ薄くなってるけど、これならなんとかなりそうね」
俺が亡き魔王に心の中で感謝を述べていると、デルフィーヌは本やら紙やらペンやらをテキパキ取り出して検証を始めた。
真剣な眼差しでメモを取り、魔法陣を見つめている。
「こうやってるとデルフィーヌがとても頼もしく見えるな。すげえ頭よさそうだ」
「ヒロオカ殿が規格外なだけで、フィーだってすごい魔導士なんだぞ?」
「エレン、やめてよ。あたしなんて大したことないんだから……」
俺の方を見ながらデルフィーヌが恥ずかしそうに言う。
まあ、謙遜だろうな……。
勇者のパーティ候補に選ばれるようなやつが大したことないわけがない。
……え? ウィンナー? あいつは知らん。
「フィーは幼い頃から王宮筆頭魔導士の父親と元三席だった母親に魔法を習い、その才能をいかんなく発揮してきた天才なんだ。魔術学校を飛び級で卒業して、16歳の若さで多くの論文を書いて結果も残している」
「へえ……」
いわゆるサラブレッドというやつか。いるんだなぁ、そういうやつ。森に一人で突っ込んで遭難してるへっぽこのイメージしかなかったけど。
「…………?」
くいくいっと、服の裾が引っ張られた。振り向くとベルナデットだった。
「彼女よりわたしのほうが強いと思いますよ?」
ピコピコと猫耳が動いている。いや、対抗心を燃やさなくてもいいでしょうが。役割が違うんだから。
言っても納得しそうになかったので頭や耳を撫でて誤魔化した。ちなみに彼女は顎の下を撫でるとゴロゴロ鳴く。
最近気が付いたことだ。獣人もその辺は猫と同じなんだな。
それからしばらく。
俺たちはデルフィーヌがカリカリとペンで魔法陣の模様を書き写したり、神妙な顔で本と睨めっこしていたりする様子を眺めて時間を過ごした。
「これは……そんなことが……ッ!」
一時間ほど経った頃だろうか。俺はあまりに退屈で船を漕いでいたのだが、デルフィーヌの声によって目を覚ました。
「……なんか成果はあったのか?」
眼を擦り、身体を伸ばしながら訊ねる。
「ええ、やっぱり現物を前に調べられたのは大きかったわね。もちろんまだ不明なところもあるけど、この短時間にしてはいろいろ突き止めることができたわ」
……やれやれ、一体どんな藪蛇を突いたのかねぇ。
デルフィーヌの話を聞くため、剣の打ち合い稽古をしていたエレンとベルナデットを呼び寄せて集まる。
あ、剣の音は防音スキルで外に漏れないようにしてあったぜ。
なんでもありなのが俺のチートなのだ。
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