第8話『奴隷商に来た』

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第8話『奴隷商に来た』

 ウィンドベルを出たその足で俺は奴隷商に来た。  小太りな店員が揉み手をして店の奥からやって来る。 「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をご所望でしょうか?」 「獣人の奴隷が欲しいんだけど。相場がわからなくて。400万くらいあったら買えるかな? 足りないならまた出直してくるけど」 「いえいえ。獣人なら十分でございますよ。もちろんグレードを上げるとその限りではありませんが。いかがいたしますか?」 「ああ、いいよ。普通ので。尻尾がもふもふしてる獣人とかいる? あと猫の獣人。ここら辺を見たいんだけど」 「もちろんございます。性別のご希望はありますか?」 「あー……」  本物の猫ならオスやメスは気にならない。コタローもオスだったし。  でもバーの娘を見る限り、獣人って耳と尻尾以外は人間と同じっぽいんだよな……。  そうなると野郎を選ぶのには抵抗がある。寝ながら尻尾をもふりたいし。  男と同衾してホモ疑惑をもたれるのは勘弁だ。 「じゃあ女の子で」 「ひひひ……。了解いたしました。では、準備をいたしますので少々お待ちください」  小太りな店員はニタァと口の両端を釣り上げた。  あんたも好きだね、みたいな顔をされた。  なんか勘違いされた気がする。でも弁明する必要はないよな。  恥ずかしくて言い訳してると思われそうだし。  そう思われるほうが恥ずかしいだろう。 「準備ができました。こちらへどうぞ」  待合室みたいなところに通され、出されたお茶を飲むこと数分。  準備を済ませた店員が迎えに来た。  店員の後ろに続いて薄暗い通路を歩いて行く。  通り過ぎざまに見えたいくつかの檻にはボロボロの貫頭衣に身を包んだ奴隷たちがいた。  どいつもこいつもみんな表情が死んでいる。  この世界の闇を垣間見た気がして少し気分が重くなった。  やっぱり買うのやめようか……。そう思ってるうちに檻の前まで辿り着いた。 「こちらの檻の三人が格安の奴隷たち、50万です。真ん中の檻が100万。その隣の二人が200万でございます」 「思ったより安いんだな。400万まで出せるよ?」 「お客様の条件ですとウチで取り扱っている獣人奴隷はこの値段までで十分なのです。条件を変更すればもっと高額な奴隷もございますが」  確かに猫族っぽい子を除けば、みんな尻尾がもふもふで俺の言った条件にドンピシャだ。  逆に言えばよくこれだけふさふさ尻尾の奴隷を揃えていたともいえる。 「大丈夫だ。この中から選ぶよ」 「かしこまりました」  店員から説明を受け、奴隷たちのスペックをまとめる。 【200万】 狼族 23歳 ・長身、多分俺より背が高い ・毛は銀色、目は金色、尻尾はもふもふ ・ボンキュッボン ・美人だけど三白眼でなんか怖い ・戦闘能力が高い ・処女  ……処女。この強面が? ぷっ、なんかウケるwww 「んだよ、文句あンのかこら」 「いえ……」  ドスの利いた声で睨まれた。怖い。ごめんなさい。この子はないわ。 猫族 10歳 ・毛色は焦げ茶 ・尻尾はもふもふ、ふさふさ、彼女の小柄な身長と同じくらい長くて大きい ・体系は小柄で痩せぎす ・処女 ・おどおどしてる ・最近まで狸族だと間違われてた  この子はいいな! 尻尾のふさふさ感がたまらん!   狸に間違われてたってメインクーンの猫族かな。  だったらコタローと同種だ。一気に気持ちが傾く。  でも10歳……。ロリコン疑惑持たれそう。とりあえず保留。 【100万】 猫族 17歳 ・ボンキュッボン ・尻尾は細い ・釣り目でツンとした印象 ・毛の色は白 ・非処女 ・寝技が得意 「うっふーん、にゃあ~ん」 「…………」  ウィンク。謎のアピールをされた。寝技ってなんだよ……。  完全にそっち向けの奴隷じゃねーか。  もふもふにそういうのは求めてないので却下。 【50万】 猫族 34歳 ・毛色は黒 ・出産経験あり ・若干ゆったりとした体型 ・尻尾は細い 猫族 28歳 ・幸薄そう ・体型は普通 ・毛は明るい茶色 ・出産経験あり ・尻尾は細い 犬族 26歳 ・垂れ目 ・毛は茶色 ・ふさふさの尻尾 ・非処女    傾向として、年齢が高いと安くなるようだ。あとは性体験の有無。  ……出産経験ありの二人が産んだ子供はどうなったのか。  ここに出ていないってことは離れ離れになってしまったんだろう。世知辛いな。  異世界は楽園じゃない。  常識が違うだけでどちらも同じ現実なのだと改めて思った。 「お客様、どういたしますか?」 「えーと、それじゃあ――」
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