第四話 研究対象の君

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3  筆談へと移行した先輩と幽子さんとのやりとではあったのだが。 「こうして見ると、益々興味深い絵面だな。一見すると先進技術の展示のようだ」  先輩から見れば宙に浮いたシャーペンが自動筆記しているように見えるのだから、こういった感想が口をついて出るのはまあ、必然ではある。 「うう……何かこう、意識すると緊張するわね」  先輩はいい顔をしないだろうけれど、既存のオカルト用語的な言い方をすればポルターガイストみたいなものになるのだろうか。  幽子さんからすれば人間・もしくはその一部と認識していない「物体」であるシャーペンに触れる事は特段難しい事ではないのだけれど、幽子さんがそうやって何か書こうとしている所を、先輩が手で幽子さんの腕や顔のあるあたりを当てずっぽうで触ろうと試みてみたりしているせいで集中できないらしい。 「幽子君、どうした? 手が停まっているぞ? 私は別段難しい質問をしたつもりはないぞ? 好きな動物の絵を描きたまえ」  コミュニケーションの初期段階からあまり複雑なやりとりはせず、簡単な意思の疎通から始めると言う方針らしい。  こういう研究屋らしいところが先輩らしいと言うか。  理系の成績もこれまた学年上位の人だからそっち系の部活に居たって不思議ではないのだけれど、趣味趣向が現在の所属と合致してしまっている以上はとやかく言うのは野暮であろう。  とはいえ。 「……先輩。一応忠告しておきますけど、女子同士でもセクハラって成立しますからね」 「失敬なやつだな、君は」 「そのワキワキ動く奇怪な手の動作を停めてから言って下さいね」 マッドサイエンティストみたいな表情で幽子さんに迫る仙崎先輩の目には幽子さんは見えていないであろうことを考えると余計にシュールである。  そうこうしているうちに、幽子さんが息を吐いてシャーペンを机に置いた。 「……で、できました」  緊張の面持ちで先輩の顔色を伺う幽子さん。 「ほうほうどれどれ……」  先輩と僕は幽子さんの手元の紙を覗き込む。 「うむ、成程。幽子君の好きな動物はライオン、か。年頃の女子と言う割には案外シブい所をつくものだな」 「先輩、これどう見たって猫じゃないんですか?」 「いやいや御山、この部部たてがみだろう」 「ええ……? そうですか? 身体の模様じゃないんですか?」 「馬鹿を言うな。猫を人に伝える事を考えた時に、こんな所に模様描かんだろう」  幽子さんが描いた動物のイラストを見てああでもないこうでもないと、僕と先輩が論争を繰り広げる中、幽子さんは俯き加減で、絞り出すように呟いた。 「……エリマキトカゲです」  意思疎通実験。  被検体の画力不足により、判定不能。
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