二人だけのオフィス

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 お互いのやる気を見せあっただけで午前の仕事を終え昼休みになった。 「お昼休憩は12時から1時、くらいの1時間。仕事の具合によっては多少ずれがあるけど。まあそんなこといちいち言わなくても判るわよね。少し行けばとんかつ屋とかカフェとかいくつかあるわ。コンビニは少し離れてるのよね」 そう説明してくれているまり恵ちゃんは、バッグの中から花柄の包みを取り出した。 「中野さんは弁当持参ですか?」 「たまにだけどね。あ、あれ?菱沼君も?」 まり恵ちゃんに話しかけながらバッグの中から俺も包みを取り出した。 「今日は初仕事の日だからって、母親に持たされました」 紺色の地味な縞模様の弁当包みを開けてみせてやった。二段重ねの弁当箱。 「そっか、菱沼君ご実家だったわね。おうち、どこだっけ?」 「南千住です。23区の中のいわゆる下町ってとこです」 「一人暮らししたいと思わないの?」 「まだ専門学校卒業したばっかりだし、便のイイとこにただで住めるんですから、今のとこは。だから当分は実家暮らしですかね。あ、俺がお茶入れます」 小さなキッチンへ初めて足を踏み入れると、コーヒー、紅茶、日本茶がそれぞれにふさわしい入れ物に入れられて並んでいる。そしてそれぞれにふさわしいカップや湯飲み。さっき出してもらった信楽焼のマグカップと同じ作家のものらしい湯飲みを手に取り、これでいいかとまり恵ちゃんに確認する。すると まり恵ちゃんもキッチンにやってきて、これは来客用、こっちがスタッフ用、と指を差して教えてくれた。 「菱沼君、気が利くわね、見かけによらず。あ、ごめんね。だって、そういうことはいつも彼女がやってくれると思ったからさ。彼女は?何やってる人?」 「今いないっすよ」 トレイに急須と湯のみをのせて振り返りながら、ニタッと笑って見せてやった。  俺には現在彼女はいない。いや、これまでにも恋人と呼べるような女と付き合った事があるとは言えない。けどちゃんと経験は積んでますよとイヤラシク唇の端を片方あげて教えてやると、「じゃあ遊びだけだったの?」とさらりと失礼な言葉を浴びせてきた。 「体だけ仲良くしてたってわけじゃないですよ、ちゃんと心も仲良くしてた。だけど愛しているなんて真剣に相手を思うほどの気持ちじゃなかったってことです。全身全霊かけて相手を想う、そういう相手ってそんなに簡単に現れないと思いません?だから恋人と呼べるような相手はいなかったってだけですよ」 
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