最低一つは売れるはずの商品作り

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 リサーチを終えてオフィスに戻ると、俺の顔を見たまり恵ちゃんが椅子をクルクルと回転させながら悪戯っぽい笑みを見せた。 「ただいま戻りました。なんか楽しそうっすね、良い事でもあったんですか?」 さっき社長との打ち合わせだってことを浮かない顔して呟いていたのに、俺の問いかけにまり恵ちゃんは180度ムード変換して両手を頭の上にかざして丸を作った。 「いよいよ販売開始よ、プロポーズ体験。さっき最終確認して社長からゴーが出たから、さっそくホームページオープンするわよ」 「おっ!マジすか?とうとう店開きですね」 思わず手を叩いて喜んじまった。俺とした事が、イメージ崩れるじゃねえか。 そんな子供っぽい一面を見たまり恵ちゃんは、「菱沼君もかわいいとこあるのね」と鼻に皺を寄せてからかうように笑った。 「お恥ずかしい…でも素直に嬉しいっすね。ゼロから始めた企画がいよいよ大衆の前にさらされるんですから。あとは反応ですよね、客が来るか」 このホームページがどれくらいの人の目に留まるのか。ネット検索する時どれくらいの人が「プロポーズ」というワードを打ち込むのか。そこから始まる。すべては人の目にさらされるところからこの商売が始まるんだ。 プロポーズ体験。この突飛な商品に価値を見出してくれる人がたくさん、と言うよりは早く出てきてほしい。数よりもまず体験者。俺はそう思っている。 「お客様はいるわよ、きっと。プロポーズされたくても縁がない人、少なくないと思う…」 「でもこればっかりはわかんなくないですか?ひとっつも注文ないって可能性だって」 手を叩いて喜んでみせたくせに思わずこんなネガティブな発言を返した俺に、まり恵ちゃんはフッと笑ってこう言った。 「最低でも一人、お客がいるわよ」 えっ?と小さく叫んだ俺に目もくれず、まり恵ちゃんはパソコンの画面を見つめてゆっくりと口角をあげていた。
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