二人だけのオフィス

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二人だけのオフィス

「出社初日がこんなにいいお天気だなんて、なんだか縁起がいいっていうか、前途明るい感じじゃないの、ねぇ?」 面接から一週間後、月曜日の朝にはやめてほしいくらいの眩しい青空。 その青空を窓から眺めるまり恵ちゃんが、声を弾ませた。 週の初めがこれだと、一週間めいっぱい働けよと言われているように 俺は感じるのだが、それってとことんひねくれ者ってことかな。  表参道から少し離れた道沿いにある、コンクリート打ちっぱなしの外観のいかにもオシャレビル。6階あるうちの3フロアを「ハッピーサプライズ」が使っている。1階にはオシャレなカフェ。椅子やテーブルにこだわっていて、家具のセンスはなかなかだ。でもメニューの写真を見るとこの手のカフェにありがちな料理は気取った量しかなくて、イケメン男子と言えどもガッツリ飯を食いたい俺にとってはあまり用はなさそうだ。  初日という事もあってスーツをびしっと決めてきた俺は、 上司になったまり恵ちゃんの指示を待って部屋の中で突っ立っていた。 見回すと、空いているデスクはない。試用期間だから自分のデスクなんかないってことなのかもしれない。でもこのまま立っていてもどうにもならないと思うんだけど。 「あの」 短く声をかけるとまり恵ちゃんが察したように頷いた。 「ここじゃないの、私達のデスクは」 「え?」 「ここは総務部の部屋。ご覧のとおり空いているデスクもスペースも無いんで、挨拶を済ませたら移動します」 「移動?ってどこへ?」 「お向かいの3階を借りているの」 裏通りに面した窓に近づくまり恵ちゃんの後ろから肩越しに外を見下ろす。 細い通りを挟んで向かいにある3階建ての小さなビル。1階は洋服屋。そこの3階が新事業部、すなわち俺達のオフィスになるってわけか。 「私達の事業と本業はまるで正反対なわけじゃない?本物と偽物・・それにまだ正式な事業部じゃないんだから、わざわざ社の中にスペース作るのも時間と労力の無駄だし。ちょうど裏のビルのオーナーと私が知り合いでおまけに3階が空いてるっていうから借りることにしたのよ。本社と近くていいでしょ?」まり恵ちゃんの横顔は嬉しそうに輝いていた。そりゃそうだよな、自分の発案が形になろうとしてるんだから。でも・・?と俺は首をかしげた。 この人一応総務の部長、なんだよな?掛持ちってことか? 俺は窓の外に微笑みかけているまり恵ちゃんの頭越しに声をかけた。
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