二人だけのオフィス

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「中野さんって、総務部長ですよね。ここにいなくていいんですか? まあ、すぐ目の前で近いっちゃあ近いけど」 少し近づきすぎたのか、俺を振り返ったまり恵ちゃんはその距離の近さに恥ずかしそうに身を固めた。 「行ったり来たりになるけど、総務にはスタッフがそろっているし企画ほど忙しくないし。だから菱沼君が向こうのオフィスで一人になることも多いと思うわ。でもキミ、寂しがり屋ってタイプじゃなさそうだものね」 うふっと鼻に皺を寄せて笑うまり恵ちゃんの顔、よくみるとかわいい。 「じゃあ挨拶回りして、新しいオフィスに行きましょう」 上司の後に続いて総務部の面々に挨拶をする。女性が多いからか、さざ波みたいな歓声があちこちから沸き起こる。身長180センチが背を丸めて頭を下げると、いやん背高いぃと判り切った事をあらためて口にする女子たちに、 しっかりとした愛想笑いを浮かべる。 よろしくお願いしますと何度も頭を下げていると、「こっちのオフィスにも顔出してね」とあちこちで声をかけられた。  つづいて下の階に降り、今度は企画部の部屋に連れて行かれた。ここには男性も結構いる。女性陣は上の階と同じくざわめいている。男性陣にはやっかまれるか?と思いきや、ここにいる男達もかなりイイ男ばっかり。 美人部長の京香ちゃんの後ろから現れた男なんて俺より背が高くて、その瞳の色からハーフだと推測されるめちゃめちゃ整った顔だ。京香ちゃんは一声かけて自分に注目を集めると、紹介します、と声を張った。 「新入社員の菱沼航星君です。まだ研修期間なのでアルバイトなのね。で、試験的に立ち上げた新事業部に配属になったのでお向かいの小さなオフィスでの勤務になります。人出が欲しい時、男手が必要な時には声かけて手伝ってもらっていいからね。いいわよね?総務部長?」 「ええ、手が空いている時なら、どうぞ」 今、二人の女部長の間で火花が散ったぞ。見えたの、俺だけじゃないはずだ。でもそんなのには慣れっこになっているのか、女性スタッフたちはハァ~イと呑気な声をあげ、男性スタッフたちは俺を取り囲んで好意的な笑顔で迎えてくれた。 「菱沼君よろしくね。こんだけ男がいても女子の要求が厳しいからさ、仲間が増えて大助かりだよ。さっそく男だけで歓迎会やろうな」 Tシャツの胸がムキっとしたイケメン先輩が俺の背中をポンとたたく。細マッチョ系、髪の長いモデル風系、クリエイター気分丸出しだけど顏も服のセンスも良い系と色とりどりなイケメンがそろっている。じつはこれってあの社長の好みなんじゃね?と妙に納得した。  最後に社長室のドアをノックして、まり恵ちゃんは大きな動作でドアを開ける。 ソファに座る社長の横にひざまずくようにして若い女がタブレットを操作していた。梶原社長はちょっと居ずまいを直したが、若い女は余裕の態度で俺達を振り返った。俺が目を合わせると、女はスッと立ち上がってちょこんと頭を下げた。 「ああ菱沼君、今日からだったね、よろしく」 「お世話になります、よろしくお願いします」 挨拶の言葉もそこそこに、まり恵ちゃんはでは失礼します、と俺の腕に手を添え部屋を出る。ドアを閉める時、まり恵ちゃんは社長と視線を絡ませていた。意味ありげな視線。やっぱりこの二人、できてる、絶対。
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