二人だけのオフィス

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 裏通りは、その名の通り表の真逆だ。人通りはない。でもそれは今の時間、午前中だけだ、きっと。通りの真ん中で右左を遠くまで眺めてみる。ポツリポツリだけど、いろんなお店がある。俺達のオフィスが入るこのビルの1階にある洋服屋、一件挟んで隣にはカフェ。その隣には、バー。逆隣りにはスポーティーなリュックがぶら下がる店、少し離れた斜め向かいの一軒家には革製品の店がある。でも朝の10時に人けを感じるのはカフェくらいで、あとは開店時間がもう少し遅いのだろう。まあ、人けは関係ない仕事だ。騒々しくなさそうで、それがありがたいと思った。  階段を上がる時、ガラス越しに服屋の店員と目があった。まり恵ちゃんと同じくらいの年頃、30そこそこって感じのショートカットの女。切れ長の目がなんとも新鮮で、みぞおちを突かれた感じ。今時はお目めパッチリ、整形だってお構いなしの女があふれかえってる中、きりりとした目元にはそそられる。 小さく頭を下げた俺に、彼女は手を振って応えてくれた。その様子を見ていたのか、まり恵ちゃんがうふふと笑った。 「へぇ、菱沼君ってああいうタイプが好み?」 「え?いやまぁ、好みっていうよりは単純にそそられるって感じですね。ほら、よく自分にないものに魅かれるっていうじゃないですか。俺目が大きくてバカっぽいから」 別に目が大きいからバカっぽい、なんて定義はないんだけど、極端な方がウケ狙えるというなんともつまんない発言をしてしまった。 「菱沼君っておもしろい事言うわね。かなり個性的な感じって、私好きよ。 そうそう、彼女、水神さんっていうんだけどモテるわよ」 「え、中野さん知り合いなんですか?」 「最初はお向かいさんのお付き合いって感じだったんだけど、飲み屋でたまたま一緒になって話したらすっごく楽しい人なの。それ以来たまにだけど一緒に飲みに行くと、まあ男が寄ってくるったらありゃしない!」 「へぇ、じゃあ恋人ももちろんいるんでしょうね。 あ、もしかして家庭もち?」 俺の質問に答える時には3階に一つしかないドアの前にたどり着いていた。 「不倫してるから独り者よ」 ドアを見つめたまま、まり恵ちゃんはぼそりと答えた。
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