二人だけのオフィス

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 部屋の中の半分には日の光が差し込んでいるが、ガラス窓から遠ざかるにつれ照明の灯りが必要だ。ドアは部屋の真ん中くらいの位置にあり、窓際からの半分は2つのデスクや棚やコビー機器などオフィスの必需品が配置され、もう半分には応接セットがゆったりとした間隔で置かれている。体が沈み込みすぎないソファ、下に敷いたラグの質感、飾り棚の小さな花瓶に挿した花。どれをとっても俺なら合格点をあげたい。総括すると、ハイセンスなオフィスだと言っていい。 窓際に向かい合ったデスクの下座側を指差して、まり恵ちゃんは君のデスクだと言った。 「この事業部はあなたと私だけだから。遠慮なくのびのびとやってちょうだい」 その後まり恵ちゃんは、トイレはビル共同で2階廊下の突き当たりにあることと、部屋の隅のくぼんでいるところが簡易キッチンであることを教えてくれた。 「これだけのスペースがあれば十分でしょ?お客様のお話をゆっくり聞ける雰囲気にしたかったからシンプルにしたのよ」 簡易キッチンから声を張るまり恵ちゃん。次第にコーヒーのいい香りが漂ってきた。 「今日は初日だから特別サービスでコーヒー淹れてあげたわよ。これからはキッチンにコーヒーメーカー置いてあるから、まず朝に淹れて、そのあともなくなったらその都度淹れておいてちょうだい。いいわね?」 「はい、わかりました」 まり恵ちゃんが差し出したマグカップを受け取る。陶器のマグカップの素朴さが気に入った。両手で包み込むと、信楽の作家の物だとまり恵ちゃんは自慢げに口角をあげていた。
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