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辿り着いた先は、高層マンションの一室だった。
車での移動時間はほんの五分程度。駅からなら歩いてでも向かえただろう場所にあるそのマンションで私を出迎えてくれたのは、ひとりの綺麗な女性だった。
頭の高い位置でおだんごにされた、明るすぎない茶色の髪。サイドにまとめられたそのおだんごからは毛先が幾筋か緩くはみ出しており、それがふわふわと揺れている。とても可愛らしい。
それから、白いブラウスに腰に巻いた黒いエプロン。エプロンのポケットからはハサミやら櫛やらが覗いており、ひと目で美容師さんだと分かる。
「はじめまして、海老原 真由さん。陽介の姉の郁です。弟がいつもお世話になっております」
深々と頭を下げた女性が口にしたその挨拶に、一瞬、目が点になった。
ようすけ、とは誰だ。ここまで私を連れてきた張本人を、弾かれたように見やった。都築さんはやはり、えらく爽やかな笑顔を浮かべて私を眺めている。
「……都築さん、そんなお名前だったんですね」
「え、そこ!? マジでか……まぁいいんだ、俺の名前なんかどうだって。郁、後は任せて大丈夫? 俺はいないほうがいいだろ?」
「うーん、どっちでもいいよ。けど女同士でゆっくり話ができたほうがいいかも」
「ん。じゃあ海老原さん、また後で迎えに来るから。終わったら連絡寄越してくれ」
「はい了解」
玄関先でにこやかに交わされる会話に、ついていけていないのは私だけだ。
分かったことは、都築さんの下の名前と、目の前の女性が都築さんのお姉さんだということ。後は、連れてくるだけ連れてきておいて、どうやら都築さんは出かけてしまうらしいということくらいか。
また後でね。
ひらひらと手を振りながら、都築さんは今来たばかりのエレベーターのほうへ去っていってしまった。
「……あ……」
どうしよう。なんなんだろう、この展開。
途方に暮れかけたそのとき、茫然と立ち尽くす私の視界に、細い指がそっと差し伸べられた。
「じゃあどうぞ上がってくださいな、真由ちゃん。私のことは郁って呼んでね」
にっこり微笑まれ、その笑顔が都築さんのそれとどことなく似て見えた。
ああ、この人たちは、本当に姉弟なんだ。場違いとも思える考えが、妙にはっきりと私の脳裏に浮かんだのだった。
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