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第2章 悪意と、非日常と
《1》なにが分かる
いけない。
こんな引きつった顔で、今日一日を過ごすわけにはいかない。
笑顔、笑顔……笑顔だ。どうにかして、無理やりにでも笑顔を作らなければ。
死に物狂いでそう思っても、まともな笑顔など絶対に浮かべられないことは分かりきっていた。
こんなことくらいで。自分の精神力の脆さに、うんざりする。
今日の担当会場は四階だ。エレベーターを使ったら怒られるだろうか。けれど、これほど長い階段を、今の私に登りきれるのか。自信はなかった。駆け慣れた従業員用の階段の先が、恐ろしいくらい長い道のりに思える。
このまま踊り場にうずくまって泣きたくなった自分に、心底嫌気が差した。
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