第4章 平穏と、綻びと

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第4章 平穏と、綻びと

《1》新たな溜息  少しずつ変わっていくこと。少しも変わらないこと。それらは互いに絡み合いながら、私を新しい場所に連れていく。  以前の私と今の私も、混ぜ込まれて新しい私になる。新しい私もまた別の私と混ぜ合わされて、もっと他の私になっていく。その感覚が、前ほど嫌いではなくなった。  飲み会から逃げ出した次の日、彩香から電話が入った。 『あんなふうに傷つけちゃうなんて思ってなかった。真由、最近本当に可愛くなったから、勝手に自慢したくなってたみたい』  塞ぎ込んだ声で、彩香はそう口にした。私のほうこそ申し訳なくなってしまい、気にしないでほしいと伝えた。  どちらかといえば、あの場に残された彩香のほうが、逃げた私よりもずっと針の筵だったのではと思う。それを尋ねると、彩香は電話の向こうで苦笑いしていた。 『それだって、私が真由に嘘なんかつかなかったら起こらなかったことだもん。ホントにごめん、これからも仲良くしてね』  そう聞いて、ほっとした。  彩香は素直だ。私はあの子のそういう性格が好きだし、また羨ましくも思ってきた。  彩香は、一年生の頃から親しくしてきた女の子だ。  私と同じく会計士になるという目標を持って大学に入学してきた彩香とは、入学後の説明会でたまたま席が隣になったことがきっかけで親しくなった。二年次に選択したコースも一緒、今年度から選択しているゼミも一緒だ。  都築さんから郁さんのマンションに誘われた前日、チェストの奥から引っ張り出したワンピース――虫に食われてとても着られない状態になってしまっていたあれも、昨年、彩香がくれたものだった。  明るく社交的な彩香に、人付き合いがあまり得意でない私は、これまでに何度助けられたか分からない。だからこそ、飲み会の誘いが嘘だと知ったときに傷ついた。  つらい思いをしたのは事実でも、これからも彩香とは友達でいたい。私だってそう思っていたから、彩香からの謝罪には救われた思いがした。 『もしかしてって思ってたんだけど、彼氏でもできたの?』  不意にそう問われ、しどろもどろになりつつもごまかした。  夏休み明けに詳しく話すと告げ、私は慌てて通話を終わらせたのだった。
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