ほろ苦い味わいだから…そんなに砂糖入れたら最早珈琲とは呼べないから

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ほろ苦い味わいだから…そんなに砂糖入れたら最早珈琲とは呼べないから

重厚感のある両開きの扉をゆっくりと開く、重苦しい空気と共に肌を焼くようなプレッシャーが全身を襲い、やがてそれは、深みのある声色によって掻き消され。 「やあ、よく来てくれたのぅ、神無月君」 白髪をオールバックに纏めた聖十郎が豪奢な椅子から徐に立ち上がり、手招きをする。 「まぁ、腰掛けてくれ」 「はい、理事長先生」 「そう固くなるでない、生徒会長たる者いついかなる時も堂々とあるべきじゃないか?神無月かんなづき優里斗ゆりと君」 「はい、以後気をつけます」 美しく青みがかった瞳、一見女性かと見紛う程に整った顔立ちはまるで人形のよう。きっちりと整えられた前髪から覗く眼光はただ静かに目の前に佇む聖十郎を見据え。 「……君の良い所はその勤勉さじゃが、固すぎるのが玉に瑕じゃな…」 「……はい」 「候補生、序列一位…神無月優里斗君」 「はい」 言うなり向かい合う優里斗へ一枚のリストを手渡し。 「これは…」 「候補生を含む、生徒と関係者のリストじゃよ」 「こんなにたくさんの候補生が…それに先生方…」 「その三十名の内、候補生は十名…そして関係者が一人」 「……?すみません、意図がよくわからないのですが」 「慌てるな、これが候補生最終選考じゃ」 「最終選考?僕はもう候補生として選ばれたはずじゃ…」 「ふむ、それは建前の話。候補生とは、我等が叢雲の一員となる為、その技量を学ぶ事を許された特別な存在」 「それは十分に存じ上げています、叢雲…この国の影を司る国家認定の諜報機関であり、超法規的措置も容認された幻の部隊」 「よく調べておるのぅ、流石は序列一位」 「身に余る御言葉です」 「しかし、それだけで我等の深淵に触れた気でおったらいかんよ?」 「と、申しますと…」 「技能、精神、教養…その他諸々の条件を元に君らは選ばれた…しかしそれは、候補生になる為の条件を満たしたに過ぎん」 「……僕達に何をしろと」 「そう構えるでない、簡単なゲームじゃよ」 「ゲーム?」 「そうじゃ…ルールは簡単、そのリストに居る候補生を探し出し…勝て」 「……それは、つまり」 「勝負して勝て、しかしルールはそれだけではない、このゲームはポイント制…一人につき5ポイントを持ち点として、より多くポイントを稼いだ者が勝者となる」 「そして、上位五名が真に候補生としての権利を手に入れるのじゃ」 「…このリストの中に居る候補生を探し出し勝負を挑む…」 「左様、しかしその中には一般の生徒も混じっておるからな…ちなみに候補生は、勝負を仕掛ける前に必ず『候補生』だと名乗らなければならない、そしてもし関係の無い一般生徒や無関係者に『候補生』だと名乗れば1ポイントマイナスじゃ」 「手持ちのポイントが無くなった時点でその者は失格、この学園を去ってもらう…」 「……」 「他の候補生もルールは同様、そしてもし君に他の候補生から勝負の依頼があった時、解決方法は二つ」 「二つ…ですか」 「ああ、勝負を受けて勝利するか、敵を欺くか…じゃな」 「欺くとは」 「まんまじゃよ、シラを切り通し一般生徒の振りをする、もし欺く事に成功すれば相手はポイントを失い、君に加算される」 「逆にもし、一般生徒に問答無用で勝負を仕掛け、手を出してしまった場合もその時点で失格とする」 「…なるほど、勝負を挑むには確固たる根拠が必要…しかし手当たりしだい『候補生』と言うワードを出せば…持ち点が無くなり自滅……簡単とは良く言ったものですね」 「このくらいやって退ける者でなければ務まらんからの?」 「だが、特別ボーナスもあるぞ?」 「特別ボーナス?」 「この中に一人紛れておる『関係者』を探し出して『候補生』と名乗ればその時点で合格とする……」 「名乗るだけで…勝負はいいのですか?」 「命が惜しくないのであれば…構わんよ、ワシはお勧めせんがの……」 「あなたの様なお方に、そこまで言わしめる『関係者』とは一体…」 「八咫烏やたがらす……」 「––––––!?八咫烏……その身一つで、いくつもの凶悪な組織を解体したと言われる…裏の世界ではその名を口にする事すら危ぶまれる存在……そんな人物が、この学園に…この中に…」 「じゃから特別ボーナスなんじゃ、実際奴に辿り着くなど雲を掴むような––––––」 不意に鳴り響く携帯の着信音 「すまん、ちょっと失礼するよ」 徐に聖十郎はスーツの内ポケットから取り出した電話を受け。 「はい、ふむ…ぇえ?!マジで?ヤタちゃんバレちゃったの?!早くない?まだ始まってもないんじゃけど…誰が?は?!あの子が?えぇ…もうちょっと頑張ってょ…頼むからさ…ワシの威厳とか…色々あるじゃん?うん、とりあえず、じゃあその子合格で、はーい」 電話を切り、咳払いを一つ。顔の前に手を組み、再び真剣な面持ちで。 「命が惜しくなければな…」 「……ぃや、今更そんな深刻そうな表情されても遅いです、八咫烏…見つかっちゃってんじゃないですか」 冷え切った視線を聖十郎に送りながら半ば呆れた表情で肩を竦める。 「ぃや、これはその…ワシにも予定外というかの」 「とりあえず後四枠しか残ってない…と言う事ですね、話はわかりました…もう失礼して宜しいですか?」 「う、うむ。期限は本日より一月じゃ、不正防止の為候補者には全員監視がつく事になる。しっかり励むのじゃぞ」 若干残念な人を見る目で聖十郎とのやり取りを終えた優里斗はその場から立ち去るべく扉の前に立ち。 「はい、では失礼致します…ぁ、これは関係ない話なのですが」 不意に足を止め僅かに聖十郎へと向き直り。 「なんじゃ?言ってみよ」 「…その老人キャラ、似合ってないので辞めた方がいいかと、失礼致しました」 無表情のまま捨て台詞と共にその場から去っていった。 「似合うとか…似合わないとかじゃ無くね?ワシ…もう直ぐ八十じゃし……」 御年七九歳、柳生聖十郎……その外見は余りにもダンディー。 理事長室を後にし、手に持ったリストを徐に眺め––––。 「僕よりも、早く合格だと…しかも八咫烏を見つけて……どこの誰だか知らないけど…絶対に許さない…八咫烏…どんな人物であろうと、全ての人間は僕のステップだ…必ず僕が見つけ出す……」 リストを握るその手に力が入る。口角を吊り上げて嘲笑を浮かべるその姿は先程までの様相とは打って変わり。 「合格だそうだ…」 「ぇ?!何が?!いきなり電話かけたと思ったら合格?!どう言う事?ってか携帯古っ!」 困惑する桐崎恵里奈、予期せぬところで思わぬメルヘンな告白をし若干自暴自棄になりつつある恵里奈を余所にムッと口元を吊り上げたリリアナは聖に擦り寄って。 「リリアナよ、何故お前は堂々と俺の腕にしがみついている?」 「ぇ?もうダァリンがキャラ隠してないから遠慮しなくていいかなぁって…それにこんなメルヘン拗らせたメンヘラ女にダァリンは渡せないもん」 「誰がメンヘラよっ!拗らせてないわよっ!あたしにとってくろっち……ひ、ひーくんはずっと想い続けてきた王子様なんだからっ!ポッとでのあんたなんかに負けないわよっ」 負けじと顔を真っ赤に染めながら聖の腕にしがみ付く……勇気は無かったので袖の裾を僅かに摘む。 「それが拗らせているって言うのよ、私のダァリンに気安く変なあだ名つけないでもらえる?」 「誰があんたのダァリンよっ、あんただってどうせ片思いなんでしょ?!ひーくんから離れてっ!」 二人の間に猛烈な火花が…本当に散っているのではないかと見紛うほど睨み合いが続き…痺れを切らした恵里奈は腕を組んだままのリリアナを引き離そうと掴みかかり。もつれにもつれ、いつの間にか様々な部位を揉みしだく結果に陥っている…白昼堂々、百合な展開に見えなくもない状態の二人。 「ちょっやめてっどこ触ってんのっ!ぁあんっダァリンっメンヘラ女が私の事いじめるの…助けて?」 「変な声出すんじゃないわよっ!だいたいあんたキャラ変わりすぎっ変態ビッチがっ」 「誰がビッチですって?!私の初めては全部ダァリンにあげるって決めてるんだから!」 「ダァリン」 「ひーくん」 髪は乱れ、リリアナの肌けた肩口からは下着の肩紐…その先には零れ落ちそうな果実の谷間が見え、そんな彼女に覆いかぶさる様な形で馬乗りになった華奢な脚線美、めくれ上がったスカートの隙間からは淡い水色のレースが見え隠れし、ずり上がった制服の間から白く滑らかで水々しい素肌が惜しげも無く顕に。 「「どっちが…すき?」」 示し合わせたかの様に呼吸を合わせた上目遣い…肩で吐息をつく艶かしい様相は、目の前の男を卒倒させるには十分すぎる破壊力で……しかし、聖は弱点への克服を怠らない。『無我の境地』一切の我欲…感情を捨て去った能面の様な表情が二人の脳天に手刀を振り下ろし。 「きゃわんっ」 「くひぃっ」 好色の権化を断ち切る事に成功。 「知らん、俺は学校に行く…お前たちはそこで続けていろ」 「ま、まってょダァリン」 付き合ってられないとばかりに踵を返しその場を後にしようとする聖に、リリアナが慌てて駆け寄り。 そんな聖の背中へ弱々しく伸ばした手は空を切り、握りしめた手の平を押し戻す様に胸へと。 「ぁ…ひーくんっ待って……あなたしかいないの……あたしには、あなたしか」 背を向けたまま無言で立ち止まる聖、その横顔を覗き込んだリリアナが思わずビクつき。 「だぁ……りん」 それは、余りにも寂しくて冷たい瞳だったから…色が抜け落ちた様な群青の双眸は景色すら写していない様に思えて……こんな彼の瞳に、自分は映る事が出来るのだろうか…そんな風にすら思える程冷たく凍えた瞳。 「桐崎……お前『候補生』なんだろ?」 突然の問いに思わず目を見開く恵里奈は躊躇いを感じながらもポツリと語り始め。 「ぇ?うん…聖くんに追いつきたくて…必死にいろんな事調べて…この学校に入ったのも桜ちゃん…紫龍院の繋がりが深い学校だから…偶然なんだけど…叢雲の『候補生』になれば…いつかひーくんと再開出来るチャンスがあるかもしれないって思ってたの……そしたら入学式でひーくんの事見つけて……」 俯き目を細める恵里奈、憂いを帯びた瞳は遠く何処かを見据える様に聖たちへと再び向けられ。 「それでもあたしは強くなる必要があった…ひーくんと同じ場所に立つため…あなたの側にいるため……自分の呪縛を断ち切るために……だからあたしは候補生に選ばれる為ずっと…死ぬ気で努力してきた…」 歯噛みしながら、確かに覚悟を宿した双眸で真剣に応える恵里奈を聖は色の無い群青の双眸で一瞥。 「じいさんからルールは聞いてなかったのか?」 「……ぇ?何の事?」 「ッチィ…俺が、調子を乱したせいで…余計な隙を与えちまったって事か……」 不機嫌に舌打ちをした後で、自身を攻める様に独り言ちる。 「ひーくん?さっきから何を言って…」 「桐崎……お前本気で叢雲の犬になるきか?」 「……うん、あたしには必要な力だから……何に代えてもあたしはなるよ……ひーくんももしかして候補生なのかな…他にもいるのは知っているけど…誰かは聞かされていないから…」 「……それを探すのが、最終選考だからな…そして、お前は合格した…偶然俺を見つけ…」 「お前…俺と同じ場所に立ちたいと言ったな……」 静かに、突き刺さる様な視線を恵里奈に向け。 「……ぅん」 「では聞くが、桐崎…お前は、俺を殺せるか?」 「––––––?!ぇ……そんなの…無理だよ…他の人なら…覚悟はしていたけど…あなたは…あなただけは無理…」 「俺と他の人間とどう違うんだ?そしてお前が選ぼうとしている道は…大切な物が一瞬でゴミに変わる、そんな世界だ」 そう、言い放った聖の凍てつく様な表情に恵里奈はただ愕然とし。 ––––––覚悟が違う…世界が違う……経験が、価値観が、背負っている重荷が…違い過ぎる。 こんなの、あたしがどれだけ背伸びしたって届きっこない。 俯き唇を噛み締めながら、憂いを宿した双眸で静かにその場を去ろうとする背中を見つめ…傍らでこちらを一瞥した後、聖へと向き直り笑顔で接する白銀の髪を見て。 なのに、どうして…あなたは自然に、そんなにも幸せそうに、彼の隣を歩けるの…… あたしが、どれだけ追いかけても届かなかった場所に…そんなに簡単に、当たり前の様に……彼の全てを知っているかのように。 恵里奈は悔しさに両手を握りしめ、勢いよく自身の顔を張った。 乾いた破裂音に思わず振り返る聖とリリアナ。 「ここで諦めちゃダメだ…届かなかないなら、一歩踏み出す…それでもダメなら、身体ごと飛び込んでやる…」 「何をブツブツ言ってるのかしら…行こう?ダァリン」 「……」 頬を腫らし俯いたままの恵里奈を見つめ、再び前を向く聖に震える声が響いて。 「あたしは……あなたが好き、どうしようもないくらい……あなたの事が好き。もしもあなたか使命どちらかを選ばなきゃいけない時が来るなら、あたしは迷わずあなたを選ぶ……例え、あなたと死ぬ事になっても、あたしはあなたを選ぶ!」 リリアナと同じ目をして……こいつは、本気で思っている…今この瞬間、こいつは…… それから先の言葉が出てこなかった…この想いを、切り捨てる事が… 知ってしまったから、この想いがどんな感情なのか……この感情を踏みにじると、どれだけ痛いのか…なんとなくだけど…知ってしまったから。 「……どいつもこいつも、何でこう物好きで不幸体質なんだ?」 「ひーくん……」 その群青の瞳には僅かに暖かい光が差していた様な気がした…バツが悪そうな表情で頬を描く彼の横顔は、たまらなく愛おしく思えて…だけど、彼にそんな表情をさせた目の前の小柄な赤髪の少女に…その真っ直ぐな言葉に苛立ちを覚えた自分が酷く小さく思えて。 「好きにしろ……ただしその「ひーくん」ってのは辞めてくれないか?恥ずかし過ぎて辛い」 「なにょ…ダァリンなんて呼ばせてるくせに」 「誤解だ、呼ばせてないし、認めた覚えもない……」 「ぇえーっひじり君は私のダァリンだもんっそれとも…ご主人さまの方が良いかな…ダァリンが呼んで欲しいなら、どんな呼び方でも」 それでも気丈に振る舞えるのは…やっぱりあなたの横に居たいからで……いつまで続くかわからないこの幸せな時間を少しでも…あなたと笑って過ごしていたいから…… 「お前は黙ってろ…話がややこしくなる」 「はぁあんっなんか……今日のダァリンいつも以上に…ィイ」 でも、もしワガママが言えるなら、やっぱり私を見ていて欲しい……あなたの『大切』が増えるのが怖い…私の存在が薄れるのが…とても怖い… 「な、なんなのその人、何で恍惚の表情を浮かべているの?!本当どう言う関係なの?!」 「…ふんっそんなの、夫婦以上の関係に決まって––––––」 「隣の部屋に住んでいる変態のご近所さんだ」 「やんっダァリン、そんな他人みたいにぃわないでぇえ」 「他人だ」 「ひゃぅっ?!酷い、ひどぉいよぉ……」 「…これも全部、あなたのせいなんだからっ」 だけど、私は…あなたを悲しませてしまうから……あなたが傷つく事だけは耐えられそうにないから…… 「なんでよっ!元はと言えばあなたが…彼に…あたしだって、死にそうな想いで告白したのに…スルーされちゃってるし…泣きたいのはあたしの方だょ…」 「ふんっあの程度の告白でダァリンを振り向かせようとする方が間違いよっ!」 こんなに、大好きにさせてくれて……あなたを愛させてくれて…私はもう沢山あなたからもらっている…… 「そ、そんな言い方……」 「私なんて、わたしなんて…どれだけっごぐはくじでもっヒグっぜんぜん…ぅう」 「ぇ…なに、なんでいきなり泣きだすのよっ大丈夫?」 「エムたいしつにならなきゃっやってられないっんだからぁ」 あなたの事、大好きな人が居てくれて…本当は嬉しいはずなのに…なんでこんなに泣きたくなるのかな… 「ぇえ……な、なにがあったのよ」 「あのね、ぇっとね…こうやって頑張ったのにね……」 「ま、まじ?それはキツいねぇ」 「だからね…ぁあやって……」 「うんうん、それで?…えぇ…なんかあたしも泣きたくなってきちゃった」 「でも、ダァリンの事が…」 「うん、わかる…わかるょ…リリたん」 「えりなぁっ」 ひっしと抱き合う二人は互いに「頑張ろう?頑張ろうね?」と慰め合い。 「なんでお前ら友情芽生えてんだょ…女ってわかんねぇ」 もし、私がいなくなったら…あなたは悲しんでくれますか?少しはあなたの中に私を残せていますか? もしも……私が、助けてと言ってしまったら……あなたは––––––。 そんな路地でのやり取りの後、状況は更に困惑を極めて… 通学中の生徒達…その視線を一点に集める三人組。 左手に艶やかな白銀のポニーテールを靡かせる美女、右手には小柄で赤毛の可愛らしいぱっちりとした栗色の瞳が印象的な美少女。 そんな対照的だが魅力溢れる二人に両側から腕をホールドされ… 「なんなんだこの状況は……いい加減離れろよ、お前ら」 黒いオーラを垂れ流し、明らかに不機嫌な声色で聖が威嚇するも。 「やぁーだもぉんっ!ダァリンに変な虫がつかない為にはこれが一番なんだよ?ねっぇりなっ?」 「そーだょ、ひーくん!もう少し女の子には優しくしないとっ、二人とも逃げちゃうんだからね?」 「お前らさっきまで歪みあってたじゃないのか?なんでいきなり仲良くなってんだよ…」 「んー、なんでだろ?話してみたら意外とリリたんってば超可愛いんだもん!それに…女の子としてひーくんの言動が余りにも…ちょっと同情したと言うか……」 じゃぁ離れりゃいいだろうがっ!何で俺が悪役設定なんだよ。 心で愚痴りつつも、それを口走ると状況が悪化する事は自明の理。 「でしょ?ダァリンてば全然女心わかってないんだからぁ、っと言う訳でぇりなとは一時休戦して、今は兎に角ダァリンの対人潔癖を何とかしよって事になったの」 「「ねぇー」」 言わせておけば…こいつらは…誰が潔癖だ… 「それに、同じ人を好きになるってなんかアオハルだなぁって感じしない?本気でぶつかって…それでダメなら恨みっこ無しっ!それにリリたんの気持ちは本物だってわかったもん……もちろんあたしも負けてないけど!」 可愛らしく強がるように唇をすぼめた恵里奈は頬を赤らめ顔を背け。 「ねぇ、ダァリン」 リリアナは不意に聖の耳元で。 「もしも、ダァリンが私の事少しでも近くに感じてくれているなら…お願い、えりなの事も…少しだけでいいから、見てあげて欲しいの……きっと、ダァリンに必要な生き方だと、私…思うから」 そう耳元で囁くように告げたリリアナは数歩先に進み、二人を振り返る。 「まるでカレカノだね?やっぱり…結構妬けちゃうかもっ」 笑顔で言い放ったリリアナは晴れやかに曇りのない表情の様に思えて。 「リ、リリたんってばいきなりやめてよっ、あ、あたし一人で腕組んでたら、恥ずかしいょっ…ちょっと待って」 恥かしさに耐えかねた恵里奈は腕をほどきリリアナへと歩み寄り、何やら楽しそうに談笑を始め。 「これはこれで…アイツにとっては良かったのか…」 微笑むリリアナの横顔を遠目に見つめ。 ……わけがわかんねぇよ…なんでお前は……ずっと…泣いている?
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