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 聖がそう告げるのと、ポケットの携帯電話が鳴るのがちょうど一緒だった。  サッと相手を確認すると、聖はすぐに指示を出した。 「真壁――悪いが、少し路肩へ寄ってくれ」 「はい」  路肩には、携帯電話を手にした壮年の男性が立っている。  聖の乗った車を確認すると、ひらひらと手を振って来た。  ヨロヨロのスーツに、曲がったネクタイ。髪は無造作に後ろで束ねている。    しかし、全体としてやさぐれた雰囲気はなく、いたずらっ子の少年のようにキラキラとした瞳は印象的で不思議な魅力がある。 ――――あの男には見覚えがある。果たして何者だったろうか?  真壁は何事かと訝しみながらも、その男性の前で車を停止させた。  聖は窓を開けて、その男と二、三、何事か小声でやり取りをすると、満足そうに微笑んで窓を閉めた。 「発車しろ」 「分かりました……あの、今の方は――どなただったんですか? 」 「古馴染みの探偵さ。こっちも急だったからダメかと思ったが……何とか間に合った。データはこの通り」  メモリーカードを指で挟み、聖は微笑む。 「野郎、いい仕事しやがる。この分はあとで上乗せして振り込んでやるか」 「そのデータは? 送信しないで直接手渡しなんて……」 「この方が確実だからな――――こんな街中のフリーWi-Fiなんて信用できるか。まぁ、いつまでもこのオレが、そうそう大人しく受け身にばかり廻ると思っているようならどうなるか、あのタヌキに思い知らせてやるアイテムさ」  フフっと笑い、聖は美しい唇をクッと歪める。 「これから、タヌキの野郎を思う存分締め上げてやる。行け、真壁」 「はいっ」  聖の明るい声に、真壁はやっと安心してアクセルを踏み込んだ。
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