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 なので、ライブやコンサートなどの時は、サポートメンバーの募集をかけていたのだ。  事務所は違うが、音楽活動に関してはサンライズプロもジュピタープロも度々提携している。今回はその縁で舞い込んできた話だった。  そしてInnovativeのメンバーは、その話に舞い上がった。  ドラムやギターとしてバラバラにサポートに入るワケではなく『Innovative』として、ユウのライブに堂々と出るチャンスなのだ。  Innovativeでボーカルとギターを担当していたミヤビという男も、コーラス兼ギタリストとしてスポットライトを浴びて出演できる。  彼らは、大いに浮かれた。  ユウが出演するMHJというイベントは、とんでもない規模の音楽祭だ。  しかも今回は、海外で初開催されるという事で世間の注目を集めている。  いいや、日本だけではない。これは全世界同時配信のビックイベントだ。  主役はユウだが、彼と同時に舞台に上がるInnovativeの顔も名前も売る事が出来る!  これは、千載一遇のチャンスだ!! ――――と、彼らはぬか喜びをしてしまったのだ。  実際に会ったユウは、音楽に対してストイックで全く妥協はせず、徹底的に究極の音をInnovativeへ求めた。  しかし彼らはとにかく『自分』を売り込むことに執着していたので、ユウの求めに応えることはどうしても二の次になる。  とくにサブであるはずのミヤビはそれが顕著で、ユウの声を邪魔するように何度も前へ出ようとした。  日本で幾度も打ち合わせをしたのだが、打算に満ちたバラバラの音は、とうとう綺麗に纏まる事はなく……これが、ユウの不興を買った。 「こんなの、ハーモニーとは呼べない。オレは嫌だ。不快な雑音なんか聴きたくない」  ユウのこの一言でInnovativeの出演は消えた。  結局MHJには、ユウはアコースティックギターを引っ提げて一人で出る事となったのである。
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