243人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
「くそ……」
小さく舌打ちをして、ユウは手の中のメモ用紙を握り締めた。
そこには、こう書かれていた。
“あなたは元・Triangleの零を恋人だと公表していますが、それを撤回してください。そうでなければ、もっと困難な状況があなたを待っているでしょう”
このメモは、ユウの台本に挟んであったものだった。
昨日、ラジオ収録で訪れたスタジオの控室に置いてあったのだ。
台本にはしっかり『畠山ユウ様』と書いてあったので、これが何かの間違いで挟んであった可能性は低い。
明らかに、ユウを狙ったものだ。
――――しかも、今回も内部の犯行だ。敵は、ユウの近くにいる人物だ。
ラジオ収録をするスタジオは、テレビ局よりは警備が緩い。
だが、全くの外部の人間が入り込むのには、さすがに無理がある。
(いったい、何者だ……? )
芸能界は、見た目通りの華やかで綺麗な世界ではない。
常に、醜い足の引っ張り合いだ。
誹謗中傷は当たり前で、例えそれをやっている最中の当事者同士でも、ニッコリ笑って肩を組むのが当然の日常である。
ざっと見たところ、スタジオには、ユウに対して敵意を持っているような同業者はいなかったが――――しかし、やはりその見た目通りとは限らない。
もしかしたら、腹に一物ある人間が紛れていたとも考えられる。
――――いや、実際、紛れていたのだろう。
そうでなければ、ユウの台本にメモを挟むような真似など出来るはずが無い。
(でも、こんな嫌がらせを……一々聖さんに言う訳にはいかないよな)
マネージャーの真壁にも言ってはならない。
真壁は聖の忠実な部下で、何かあったら全て筒抜けだ。
「メモのことは無視するしかないか……」
嘆息して呟いたところ、ピンポーンとドアフォンが鳴った。
見ると、たったいま考えたばかりの相手である、件のマネージャーが映っていた。
『真壁です、ユウさん。今直ぐここを移動しましょう! 』
最初のコメントを投稿しよう!