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「くそ……」  小さく舌打ちをして、ユウは手の中のメモ用紙を握り締めた。  そこには、こう書かれていた。 “あなたは元・Triangleの零を恋人だと公表していますが、それを撤回してください。そうでなければ、もっと困難な状況があなたを待っているでしょう”  このメモは、ユウの台本に挟んであったものだった。  昨日、ラジオ収録で訪れたスタジオの控室に置いてあったのだ。  台本にはしっかり『畠山ユウ様』と書いてあったので、これが何かの間違いで挟んであった可能性は低い。  明らかに、ユウを狙ったものだ。 ――――しかも、今回も内部の犯行だ。敵は、ユウの近くにいる人物だ。  ラジオ収録をするスタジオは、テレビ局よりは警備が緩い。  だが、全くの外部の人間が入り込むのには、さすがに無理がある。 (いったい、何者だ……? )  芸能界は、見た目通りの華やかで綺麗な世界ではない。  常に、醜い足の引っ張り合いだ。  誹謗中傷は当たり前で、例えそれをやっている最中の当事者同士でも、ニッコリ笑って肩を組むのが当然の日常である。  ざっと見たところ、スタジオには、ユウに対して敵意を持っているような同業者はいなかったが――――しかし、やはりその見た目通りとは限らない。  もしかしたら、腹に一物ある人間が紛れていたとも考えられる。 ――――いや、実際、紛れていたのだろう。  そうでなければ、ユウの台本にメモを挟むような真似など出来るはずが無い。 (でも、こんな嫌がらせを……一々聖さん(社長)に言う訳にはいかないよな)  マネージャーの真壁にも言ってはならない。  真壁は聖の忠実な部下で、何かあったら全て筒抜けだ。 「メモのことは無視するしかないか……」  嘆息して呟いたところ、ピンポーンとドアフォンが鳴った。  見ると、たったいま考えたばかりの相手である、(くだん)のマネージャーが映っていた。 『真壁です、ユウさん。今直ぐここを移動しましょう! 』
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