2.深谷奏一郎という男

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 地元での結婚も視野に入れようと思った。  なにも実家から離れた場所に居なくても、地元でいい人がいたらそれもいいかなって。  気が早いかもしれないが、結婚し子育てしたいと思った時、場所も重要だと思ったからだ。  私の趣味嗜好性格を兄はよく知っているし、地元では顔が広い。良さそうな相手がいたらよろしくくらいの軽い気持ちだったが、実は適役かもしれない。 「陽、こっち帰ってくるのか? 美紀子さんの話だと、そうじゃなかったけ」  美紀子とは、母のことである。 「相手がそっちの人ならば帰ることになるだろうけど、わかんないな」 「適当だな。仕事はどうすんだ?」  緻密で慎重派の兄と、もうお分かりかもしれないが、かなり大雑把でひらめき派の妹。  兄妹仲は良い方だと思う。 「俺の友達も粗方片付いちゃってんだよな」 「別にお兄ちゃんの友達とかじゃなくていい。ただ、いい人がいたらって話よ」 「どうした? ずいぶんやる気満々だな。失恋でもしたか?」  失恋ね。  むしろしてみたい。  ラブソングでうっとりして、失恋ソングで号泣したい。
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