2.深谷奏一郎という男

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「そういうわけじゃないけど、この間お母さんから電話きて、結婚しないのかって聞かれた。そんなん言われたの初めてでさ」 「さすがのおふくろも、近田さんの結婚が決まって何か思うところあったんだろ。陽に言わずにはいられなかったんだろうな」  まぁそうだよね。気持ちはわかる。今まで何も言われなかったのがおかしいか。 「結婚なんて、頑張らなくとも出会うときに出会って自然とそうなるだろ、とは思うけど、陽の場合は自分で尻に火をつけないと始まらないかもな。そのままぼーっとしてたら、40、50あっという間だぞ」  妹のこと、よくわかってらっしゃる。 「私、集団での合コンとか婚活パーティーみたいなのだけは苦手で。お見合いとか紹介の方がいいなと思って」 「まぁでも、妹さん紹介してと言われたことはあるな。よく知らないから相手の保証はできないけど」 「そうなの? そんなお話があるのなら是非会ってみますのでお願いします」 「好みとかどんなタイプが好いとかは?」 「タイプとか分からない。とりあえず一緒にいて疲れない穏やかな人かな」 「陽、これまでまともに男と付き合ったことあるのか?」 「あ、あるよ。お兄が知らないだけだよ」 「ふーん」  なぜ兄相手に見栄を張っているんだろう。さっきから。  まぁとりあえず分かったと言われて電話を切った。
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