1.恋とか愛とか、わからないものはわからない

2/12
8768人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
 重要な仕事の話がひと通り終わり、あとは挨拶をして帰ろうという時だった。  島田さんの会社内が結婚ラッシュだという話になり、それはおめでたいですね、などと相槌を打っていた。  それがいつの間にか、なぜか私の恋愛話に変わり、あれこれ聞かれたけれど否定も肯定もしたつもりはなかった。 実際のところ彼氏のかの字も無ければ、気になる相手にすら恵まれていない。 「渡会さんなら相手の一人や二人いるか」 「……残念ながら、まったくおりません」  三浦チーフは二年前に結婚し、今、奥様のお腹の中には二人目のお子さんがいる。 良夫賢父との評判だ。  結婚する前も知っているけれど、以前はもっとクールで、切れ味鋭いナイフのような、淡々とした人だった気がする。  結婚するとこうも変わるんだ、身も心もまあるくなって……、と微笑ましく思う。 「そういえばこの間、友人と変な占い師のところにいったんですよね。私は友人の付き添いで」 「好きだね女性は、そういうの」 「そしたら私まで勝手に見られて未来を。〝五年以内に恋愛結婚をして子供は三人、相手のお顔もみえますよ〟って」 「お、良かったじゃない」 「でも五年以内って、そこそこありそうな確率ですよね」 「そうだね、誰にでも当てはまりそうな」 「ちゃっかり五千円も取られました」 「ハハハ」  私が大学進学を機にこの街に来て、 彼是十一年になる。一人暮らし歴も十一年。社会人になって七年。  仕事は適度に忙しい。そこそこやり甲斐も感じている。気の置けない友人もいる。  仕事やプライベートを通じて知り合った大切な人たちとの時間もひとりで過ごすのも好きだ。好きな時に好きなものを食べ、料理もする。時間を忘れて趣味に没頭したり、休みの日には運動も少々。大抵の場所には一人で行くしあまり淋しいと感じる性格ではない。  困ることも特になく、自由気ままなおひとり様生活を満喫していた。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!