2.深谷奏一郎という男

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** 「渡会さん、営業一課へようこそ! おかげさまで日々の業務が大変スムーズになりました。引き続きよろしくお願いしまーす! では皆さん、今日はお時間の許す限りお楽しみください、カンパイ!」 「カンパーーイ!」  今日は例の、歓迎会兼親睦会の飲みの日。 「渡会飲んでる?」同期の飯島くんと、 「渡会ちゃーん」営業事務の先輩桜井さん。  桜井さんは私の三歳年上で、小学生の女の子と男の子のお母さん。育休を経て子育てしながら働くワーキングママだ。 「今日お子さん達は?」 「今日は旦那が早く帰ってきて子供たちみてる。たまにはいいのよ。ガミガミ怒るママがいなくて、お互い羽が伸ばせてさ」 「お、じゃあ貴重な時間だ。飲みましょう」  結婚して子供がいて仕事もばりばりこなして、桜井さんは一人で一体何役をこなしているのだろう。私とたった三歳しか違わないのに、必要とする人がいっぱいいる。自由度は少ないのかもしれないけれど、私なんかよりもずっと濃い毎日を送っている気がする。 それに比べ、私はどんだけ身軽なんだろう。 「慣れた? 営業の仕事」 「はい、おかげさまで大分慣れました。雰囲気いいですね、一課」 「相変わらず有能だね、渡会。よく総務がOKしたね」 「いや、誰か一人出さなきゃっていったら、私しかいないもの、立場的に。自分から希望したよ」 「みんなやりやすいって言ってるし、ほんと助かってる。先月なんて相当悲惨でしたよね、桜井さん」 「そうだよー。私なんて子供のお迎え時間もあるから、残業したくてもにっちもさっちもいかなくてさぁ。渡会ちゃんが来てくれて良かったよー。救世主だよぉ」 「あら、おそれいります」 「このままバリバリ、営業もやれちゃそう、お客さんにも評判いいって三浦さんが」 「無理無理、私は裏方だけで十分です」
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