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「そういえばこの間の話聞いた? 斎藤君のM設計の件」
ああ、あの南野設計のクレームの件か。
「結局あれどうなったんですか?」
「詳しい話はわからないんだけど、斎藤君が、Mの担当者から一方的に逆恨みされてて、それでうまくいってなかったんだって」
逆恨み?
「その担当者の男の、片想い中の女子社員が斎藤君に夢中らしくて」
「はっ?」
思いもよらなかった話に呆気にとられる。
「露骨な嫌がらせではなかったみたいだけど、その私情の部分がいろいろ判断を鈍らせていたんでしょうねぇ、どんどん噛み合わなくなっちゃって、斎藤君も萎縮しちゃって悪循環、という」
「そんなことって……」
「あり得ないよね。だから振り向いてもらえないんだよって、深谷さん言ってくれたかな? アハハ」
まさかの嫉妬、痴情?
「深谷さんが入ったから、まぁ向こうも冷静になったみたいで、こちらがのむ部分とあちらも後ろめたいところもあったんだろうけど、新しい提案を受け入れてくれて、売上も何割り増しですよ。結果的にはうちの得。さすがよね。深谷さん、元々は開発にいた人だから、提案の仕方も説得力があって上手いんだこれが」
あの後、そんなことになっていたとは。
「でも深谷さんてちょっと怖くない? 完璧すぎて」
怖い? 完璧?
「怖くはないですけど、たしかに、少し緊張しますね。なんとなく」
いろいろと見透かされそうで。
「隙が無いんだよね」
「ああ、なるほど。隙、無さそうですね」
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