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「陽、ちゃんとお祝いしてあげられなくてごめん。誕生日、おめでとう」
「ありがとう。記念すべき、三十路」
「俺は正直、陽と暮らしたい。今すぐに」
「……」
「もうとっくに気持ちは決まってる。ずっと一緒にいたい。陽しか考えられない」
「それは勿論私も同じ。奏一郎君と一緒にいたい。嬉しい……けど、今の話聞いてた?」
「聞いてた。だから今すぐじゃなくていい。そう考えている事だけは覚えておいて?」
安心した様子で頷いた。
丸山と五十嵐との会話を思い出す。
陽は、俺の頭の中で思った通りに動くような人じゃない。周りから固める計画とか、できそうにない。最初からずっと、彼女に振り回されっぱなしなんだから。
あの夜、勇気を持って俺に声を掛けてくれた事、なかなか熱くなれなかった俺の恋心に火を点けてくれた事に、心からありがとうと言いたい。
俺を見つけてくれて、ありがとう。
「お兄さんがこっちに出張って、来週末だっけ?」
「そう。……時間取れそう?」
「うん、もちろん」
「あー、でもなんか、態度悪いかも?」
「ああ、俺の事、陽を泣かせた悪人ってことになってるんでしょ?」
「なんでそれ、知ってるの?」
「土曜日に、三枝君と飲んだ。イルマリで」
「えっ? 三枝さん?」
なんでと、少し焦っている。
「岳から頼まれてたんでしょ?」
「そうなの! 岳君が!!」
何もやましいことはないだろうが、陽のこの焦ったり慌てたりする姿を見るのも結構好きなんだ。
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