最終章・これからちょっと、遠くまで side F / side W

12/27

8796人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
「陽、ちゃんとお祝いしてあげられなくてごめん。誕生日、おめでとう」 「ありがとう。記念すべき、三十路」 「俺は正直、陽と暮らしたい。今すぐに」 「……」 「もうとっくに気持ちは決まってる。ずっと一緒にいたい。陽しか考えられない」 「それは勿論私も同じ。奏一郎君と一緒にいたい。嬉しい……けど、今の話聞いてた?」 「聞いてた。だから今すぐじゃなくていい。そう考えている事だけは覚えておいて?」  安心した様子で頷いた。  丸山と五十嵐との会話を思い出す。 陽は、俺の頭の中で思った通りに動くような人じゃない。周りから固める計画とか、できそうにない。最初からずっと、彼女に振り回されっぱなしなんだから。  あの夜、勇気を持って俺に声を掛けてくれた事、なかなか熱くなれなかった俺の恋心に火を点けてくれた事に、心からありがとうと言いたい。  俺を見つけてくれて、ありがとう。 「お兄さんがこっちに出張って、来週末だっけ?」 「そう。……時間取れそう?」 「うん、もちろん」 「あー、でもなんか、態度悪いかも?」 「ああ、俺の事、陽を泣かせた悪人ってことになってるんでしょ?」 「なんでそれ、知ってるの?」 「土曜日に、三枝君と飲んだ。イルマリで」 「えっ? 三枝さん?」  なんでと、少し焦っている。 「岳から頼まれてたんでしょ?」 「そうなの! 岳君が!!」  何もやましいことはないだろうが、陽のこの焦ったり慌てたりする姿を見るのも結構好きなんだ。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8796人が本棚に入れています
本棚に追加